オリフィスの隙間【Ⅸs Short Stories】 (ページ9)

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指先が冷えるようになって着る服が増えると

通り過ぎた暑さが恋しくなったりする。

プーゥゥゥ……ン……

「あらら、行っちゃったか」

けっこうしっかりめに残業をして

出来れば間に合いたかった列車が目の前を通り過ぎていったから

手持ち無沙汰にトーク画面を開いてみる。

新しいトークはないけど

ふと、昔のを遡ってみた。

目黒蓮今週末、フットサルの試合するんだけど来ない?

Aそういう応援は、もう1オクターブ声が高い方が通るらしいよ

目黒蓮Aさんの好きそうなケーキあった

Aいいねぇ、お金はあとであげるから好きなの買っておいで

目黒蓮ねぇ、たまには2人でどっか行かない?

A今月サークルの合宿あるからお金ないって言ってなかったかい?

あぁ、本当にどうしてこう

君は私を都合のいい女でほっといてくれないんだろうね。

それは確かに

大学の後輩繋がりの合コン紛いの飲み会で出会った時点で

察することができなかった

私の失態ではあるんだけどさ。

中が熱くて、蕩けそうな

多分しばらく忘れないワンナイトのつもりが

蓮『あの……もしかして、Aさんですか？』

『え、』

サークルのポスターを片手に

驚いた顔してる君を見て

迂闊にも、キュン、てしちゃったんだよ。

胸が、なんてかわいいところじゃなくて

身体の奥の、本能的なところが。

だから、君を責めるのはお門違いなことは

本当にそうなんだけど

蓮「あれ、Aさん？」

こうやって悪戯にロマンスを寄越されても

私は、困っちゃうんだから。

蓮「あ、やっぱそうじゃん。

　飲み会抜け出してきてラッキーだったわ」

「そう？

　抜け出してきたんなら、大人しく帰った方がいいんじゃない？」

蓮「やだ。

　最近Aさん足りてないから、ついてく」

「蓮君、犬みたいだよ(笑)」

蓮「俺、犬じゃねーから」

「あ、」

覆い尽くして、貪るように奪われる唇

蓮「ね？」

「……はいはい、おっきなわんちゃん」

いつでも手放せるようにしてるのに

「卒論、進んでるの？」

蓮「うん、でもやっぱ12月忙しそう」

「そう」

蓮「クリスマスは会いたいなぁ」

「……卒論出せたらね」