オリフィスの隙間【Ⅸs Short Stories】 (ページ8)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:7,118 hit

・ページ8

・

後期が始まる9月のキャンパスは

春ほどじゃないけど

こんなに学生がいたのかって毎回驚く。

気だるげに歩く学生の間を抜きながらせっせと移動しても、

お目当ての場所まではまだビル2つ分遠いんだから

大学ってのは、本当に贅沢な場所だよね。

「おはようございまーす、学生名簿いただきに来ましたー」

『目的は？』

「あぁ、今年度の卒業生宛に学報を制作中でして」

『ですよね、学生広報課の鳴海さん。

　毎回言ってますが、貴女の発言はもう少し順を追ってですね、』

「あー、法学部のはこれですかね？」

『だから、！

　……もういいです、』

「あ、そうです？」

それなら、と

貰うものを貰って、頭を抱える学生課からは速やかに撤退。

まったく毎回お説教が長いんだから

まぁ、適当に流してるのがバレバレな私も幾分かは悪いけどさ。

「あーぁ、煙草吸いたい……」

大学全体で禁煙・名ばかりの分煙の流れが来てしばらく。

学生数も多くて、雑多な雰囲気を良しとしてたこの大学も

全国運動の波には逆らえないまま、

次々に喫煙スペースはなくなって

今じゃ日陰の肩身の狭い生活を強いられる毎日。

可哀想に。

自動販売機置き場になってしまった

かつての憩いの場を見ると、溜息も零れる。

「ただいま戻りましたー」

『おーぅ、鳴海ぃ。後援会からメール来てたから確認しとけー』

「承知でーす」

自分の学生時代に紫煙の香りが漂うのは

そんなに悪くないと思ってる。

あの頃吸ってた銘柄を見ると思い出す馬鹿話の夜もあるし、

喫煙所で交わした恥ずかしい青い話もあるし。

それでも何となく、

全体にうっすらとした靄がかかってるような

煙の実態が掴めないように

そんな風にしか思い出せない学生時代は、

少し、寂しいとも思う。

だから、

ブブ、ブブ

目黒蓮今、学食いるけど一緒にどう?

A君達へのラブレターを制作中だから、また今度ね。

君が、学生生活を精いっぱい過ごしている内は

あまり、煙たいことがないようにしたいなんて

大人ぶって思ったりしてるんだよ。

ブブ、ブブ

目黒蓮俺だけにちょうだいよ。そのラブレター

……まぁ、

どうやら少し、煙が移りすぎたような気もしてるんだけどさ。