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「そんな、オバケを見たような顔しないでよ」



そういうと君はくつくつと笑いながら俺の横をすり抜けて、部屋の中へと入っていく。
俺の思考は自分の心臓の音に遮られていた。



だって、いのちゃんがここにいる。

いのちゃんと俺は、あれからずっと会ってなくて。




なんでここにいるの?
なんでここがわかったの?
俺の事怒ってないの?
まだあの店で働いてるの?
あの時はごめんね?




いろんな言葉が俺の頭をぐしゃぐしゃにする。


動きが止まっている俺を見て、「ん?」と首を傾げるいのちゃんがあまりにも自然で、ここは今まで通り接するのが正解なのかと思ったが、まさか俺にそんな権利はない。



俺は、彼から逃げ出したのだ。

もしかしたら、あの日の文句を言いに来たのかもしれない。

今度は俺がその場で下を俯く番だった。






「大変だったんだから」


「……え」






そんな俺にゆっくり近づくと、俺の頭をぽんっと触るいのちゃん。
俺は、恐る恐る顔を上げる。






「俺、ずっとあの日から、大ちゃんの居場所探してた。予想より時間かかっちゃったよ」





なんでここがわかったの?と、いのちゃんの会話の流れでやっと1つ気になる事を質問出来ると、いのちゃんは平然と「だってお店のHPに宣材写真載ってるじゃん」と答えた。

つまり、彼はずっと全国何十店舗とある店を検索して、俺を探し続けてくれていたということだろうか。







「俺もいろいろ忙しかったから、なかなか手間暇かけられなくて、時間かかったのもあるんだけどさ」


「うん……」








勝手に姿を消して、時間を削って捜索までして貰って。
俺はどれだけ君に迷惑をかけたのだろうと思うと息の仕方を忘れそうだった。






「大ちゃんは仕事が嫌で辞めたわけじゃないだろうから、この世界のどこかにいると思ってた。だから見つけた時は凄く嬉しかったんだよ。」






正直に言えば、今の時間は嬉しい気持ちよりも、気まずさが勝っていて、俺はまた逃げ出したい衝動でたくさんだった。
そしてそれを悟ったのか、いのちゃんは、すっと俺の手を取って掴む。
いのちゃんの温もりは暖かくて、今までの俺の心にかかった真っ暗な靄を溶かしてくれるような気がした。







「なんで、来てくれたの……」






なかったことになんかできない。
もう今更、君の前でかっこつけられない。
もう、散々仕出かしてしまった後だ。




その声は、既に潤みを帯びた弱々しいものになった。






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あんこ(プロフ) - 灯火さん» ご感想ありがとうございます( ;∀;)そう言って頂けるとすごく嬉しいです...!私がそのお言葉に感動します(笑)2人を幸せにできてよかったです!!応援ありがとうございました!また次の作品もお暇な時に読んでやってくださいませ! (2018年5月7日 8時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
灯火(プロフ) - 最後にはなりますが、完結おめでとうございました!次も楽しく読ませていただきます!(上から目線っぽくてすみません(汗) (2018年5月7日 0時) (レス) id: 8bf5c2ea68 (このIDを非表示/違反報告)
灯火(プロフ) - こういうお話ほんっっとに大好きです!文の書き方とかそれぞれの気持ちが全部伝わってきました…!もう感動以外の言葉が見つかりません…ラスト号泣でした………。こんなに入り込んで読んだの初めてかもしれないってくらいでした! (2018年5月7日 0時) (レス) id: 8bf5c2ea68 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - ユリアさん» ユリアさーん!嬉しい!!本当ありがとうございます( ノД`)私がそのお言葉に感動してしまいました……(笑)恐れ多いですほんと……。また、次の作品もお付き合い頂けると幸いです!よろしくお願いします! (2018年5月3日 1時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
ユリア - これからも頑張って下さい!応援してます!!あと、長々とすいませんでした...。 (2018年5月3日 0時) (レス) id: c6e7ebbbc1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あんこ | 作成日時:2018年3月22日 16時

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