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「やまだ、ちょっといい?」
PV撮影が近づいた頃、その日の練習終わりに俺は山田へ声をかける。
きっともう、声は震えていなかったはずだ。
「勿論だよ」
俺の目には言葉は平然としているけれど、
ちょっと引きつった君の笑顔が映って。
嗚呼やっぱり俺の所為だったんだななんて改めて実感もして。
やまだ、ごめんね
そう心で謝罪をすると、俺もそっと微笑み返した。
「じゃ、一緒に帰ろ」
すると右手の車の鍵をゆらゆらと揺らし、微笑む山田の姿。
つい「いいの?」なんて驚いてしまう。
「いいよ、送ってく」
山田が時間を作ってくれたことが嬉しくて、山田のほんの少し後ろを歩く俺は、嫌われていなくて良かったと密かに顔を綻ばせてしまった。
「あ、そういえば、昨日のめざまし見たよ」
駐車場まで続く廊下で覚悟していた気まずい空気を、またしても打ち破ってくれた山田に多少驚きながらも、「早起きだったんだ」なんて何気ない返事を返す。
「そうそうだから少しだけだけど、昨日の伊野尾ちゃん食ってたの美味そうだったなあ〜」
「あはは、あれは確かに美味かった。俺実際コーナー終わってもまだ必死に食おうとしてたもん」
「ふ、はっ・・・それ、だめでしょ」
駐車場までの道、2人の笑い声が重なり合う。
なんだ、今までどおり笑い合えてるじゃん。
……よかった
そんな他愛のない話を続けていれば、すぐに見えた駐車場。
山田の車に乗り込むと、この席からの景色がなんとなく懐かしく思えて、窓を覗いてみる。
もちろん今実際に広がっているのは殺風景な駐車場だけど、あの日、山田が連れて行ってくれたオシャレな住宅街までの道、行きつけのお店の香り、抱き締めた紙袋の感覚、あの時触った腕時計の冷たい感触、全てを鮮明に覚えていた。
そんなに月日は経っていないのに、とても懐かしく思えたんだ。
キラキラしていた。
あの時の山田も、あの時の風景も。
もう、君の存在を壊したくない。
君を悩ます元凶でもいたくない。
今なら、君との関係も元に戻れる気がした。
そんなことをぼーっと考えていたら、いつまで経っても山田がエンジンをすぐにつけないことに気づき、どうしたんだろうと不思議に思って顔を向けると、ぱちっと交わる視線。
「・・・伊野尾ちゃん、」
そして彼もまた、何か言いたげに瞳を揺らしていた。
もう大丈夫。俺は笑える。
山田、あのね、
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あんこ(プロフ) - なっちさん» なっちさんコメントありがとうございます!すごく、そう言って頂けると私も胸がきゅってなります嬉しいです(´;ω;`)少し悲しいお話ですが、きっと2人にとって大切な時間だったと思います...。 (2018年12月31日 12時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
なっち - 胸がぎゅっと痛くなりました。涙が出ます(泣) (2018年12月30日 2時) (レス) id: a01bbaa610 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - kei622kazumi121さん» ご感想ありがとうございます(´;ω;`)悲恋ですが、この山田さんと伊野尾さんは自分の決断に悔いなく前を向いて進んでいくかと思います……!今のところ続きは皆様の脳内におまかせするつもりですが、何かきっかけがあれば是非〜! (2018年2月2日 13時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
kei622kazumi121(プロフ) - 完結お疲れ様です。この作品を読んですごく泣いてしまいました。やまいのはベタベタ系をたくさん読んでいたのでこの結末は予想していませんでした。悲恋は泣けます……このお話の続編があればうれしいです。…… (2018年2月1日 23時) (レス) id: 04bc14a5ea (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - りこさん» りこさんはじめまして!コメントありがとうございます〜!そしてご感想まで(´;ω;`)そう言っていだだけると凄く嬉しいです!全く違うように見えるけどどこか似ている、そんなやまいのでした。他の作品でも引き続き応援頂けますと嬉しいです! (2018年1月26日 9時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あんこ | 作成日時:2017年12月19日 14時