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「ふざ、けんなよ……」
伊野尾ちゃんの声が小さく震えているのがわかる。
今までも掛け持ちがバレて散々罵倒されて関係が終わることは幾度もあったから、俺は、嗚呼ここまでか、なんて平然と考えながらそのまま耳を電話に傾けた。
「……なんなんだよ、おまえ」
「嫌いになった？」
伊野尾ちゃんの声に被せるように、俺はそう質問を投げかける。
すると暫くの沈黙。
よく考えたら縁が切れる訳でもない仕事仲間だから気を遣った言葉を選んでいるのかもしれない。
さすがに身近の人間には非道な質問をしすぎたかな、なんて、俺も頭の中で考えた。
だけど、俺には絶望したでしょ？
別に伊野尾ちゃん個人をいじめたいわけでもなんでもなくて、好きだ愛しているという言葉が何よりも意味の無いものだと思っている俺は、その言葉を告げられると真意を確かめたくなってしまう。
そんなこと言って、
どうせお前もあいつらと一緒だろ、と。
結局、俺は自分自身何をしたいのかもわからなくなっていた。
もしかしたら、恋愛感情なんて錯覚だと思いながらも、どこかで真実の愛に巡り会える可能性を未だ信じているのかもしれない。
そしたら、一番醜いのは俺だ。
だけど結局は自分が真剣になれないことから、その先に進む前に関係は終わってしまうので、その真相は一生わからないままだろうけど。
「……だよ、」
「え？」
伊野尾ちゃんの声が掠れていて聞こえず、俺は聞き返すと共に、手元の携帯の音量を上げる。
「サイテーだよ、死ね、クソ男、馬鹿野郎」
そして聞こえたのはまるで小学生が喧嘩で使う様な暴言の数々で、俺はつい笑いをこらえてしまう。
気の使った先がそれとは、さすが伊野尾ちゃんらしいなと思った。
「……だけど、こっちは10年以上一緒にいるんだよ。ナメんな、そんな簡単に嫌いになれねえよ…」
次々に伊野尾ちゃんが思いを紡ぐ。
続いた言葉が予想とは大きく異なるもので、俺は息を詰めた。
電話相手に表情は伝わらないというのに、俺は目を見開いたまま驚きのあまり身体が固まってしまう。
強気の口調に反して、伊野尾ちゃんの声は震えていて、酷く切なさを含んでいるように聞こえた。
「今夜、そっち行っていい？」
頭なんて回ってなかった。
だけど今の君の表情が見えないことがもどかしくなって、気づけば俺はそう言っていた。
人生の些細な選択肢はふいにやってくる。
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あんこ(プロフ) - なっちさん» なっちさんコメントありがとうございます！すごく、そう言って頂けると私も胸がきゅってなります嬉しいです(´；ω；｀)少し悲しいお話ですが、きっと2人にとって大切な時間だったと思います...。 (2018年12月31日 12時) (
レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
なっち - 胸がぎゅっと痛くなりました。涙が出ます（泣） (2018年12月30日 2時) (レス) id: a01bbaa610 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - kei622kazumi121さん» ご感想ありがとうございます(´；ω；｀)悲恋ですが、この山田さんと伊野尾さんは自分の決断に悔いなく前を向いて進んでいくかと思います……！今のところ続きは皆様の脳内におまかせするつもりですが、何かきっかけがあれば是非〜！ (2018年2月2日 13時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
kei622kazumi121(プロフ) - 完結お疲れ様です。この作品を読んですごく泣いてしまいました。やまいのはベタベタ系をたくさん読んでいたのでこの結末は予想していませんでした。悲恋は泣けます……このお話の続編があればうれしいです。…… (2018年2月1日 23時) (レス) id: 04bc14a5ea (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - りこさん» りこさんはじめまして！コメントありがとうございます〜！そしてご感想まで(´；ω；｀)そう言っていだだけると凄く嬉しいです！全く違うように見えるけどどこか似ている、そんなやまいのでした。他の作品でも引き続き応援頂けますと嬉しいです！ (2018年1月26日 9時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あんこ
| 作成日時：2017年12月19日 14時
