ホシノスナ yt×in

6 yt ページ6

.


＊＊＊




「暑い……」


そして季節は夏になった。




風物詩と慈しまれる蝉の声は、耳元で鳴かれているような爆音。
蝉ってこんなに気がおかしくなりそうなレベルで鳴くものだっけと、頭がくらくら。

やっぱりこの島は、随分東京とは違う。



なのに

行きたくない、早く帰りたいとごねつつも、
島で過ごすようになって気付けば3ヶ月が過ぎたんだ。


「あら、日焼け？」


登校前に朝御飯を食べていたら、目の前に座っていた母親がそう言って不意に俺の鼻を突いた。
貴方が日焼けしているところ久しぶりに見た、と笑って。


「……この島の奴は、外で遊びすぎなんだよ。全く、子供みたい。」


指摘されたのが恥ずかしくて、俺は少し拗ねたフリをしながら鼻を擦ったら、ぺりぺりと茶色い皮が剥がれ落ちた。
それが食べかけの目玉焼きに落ちそうになって「やべ」と皿を慌ててずらしていると、外から聞こえる自転車のベルの音。


「お迎えが来たわね」

「…ほんと、朝から元気すぎる」


蝉の声と、少し錆びの交じった金属音。
特に、このチリンチリンというベルは、俺が出て行くまで止まらない事を知っているから。
俺は溜息を零して、鞄を持つと玄関へと向かった。
母親は、そんな俺を見て何故か微笑んでいた。







「お、裕翔！おせーよ！」


「東京の奴は朝弱いんだな！」


「関係ないし、2人が朝から元気すぎるだけで、俺は普通！」







島の同級生達は、本当に元気だ。

小さな島に転校してきた4月。
あれから本当に毎日、放課後は引っ張りだこだった。

海で釣りをし、山で山菜採りをし、島の外周を自転車レースし……


とにかく、高校生にもなって外で遊びまくった。
とにかく、この島の魅力を知って欲しいと言う彼等の気持ちが伝わった。


俺もなんだかんだ、この島の楽しみ方をわかってきたんだ。




毎朝、家が近い奴らが決まって俺を迎えにやって来る。
別に頼んだりしていないのに、いつの間にかそれが習慣化した。

馬鹿みたいに朝から騒いで登校するのも、もう何回目か。









「おはよう。いのちゃん」


眠そうな顔をしている癖にいつも来るのが早い君を、俺はいつの間にかそう呼ぶようになって。
席に着く前、君への挨拶もいつの間にか習慣化した。



「あ、裕翔。鼻の頭…」



君の綺麗な目の玉越しに見える俺の姿。

とくん、と心音が刻む。


…その瞳に吸い込まれそうになるのも、もう何回目か。





島の人は、どうも俺の調子を狂わせる。




.

7 yt→←5 yt

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す