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じりじり、照り付ける太陽。
じわじわ、滲む汗。
どきどき、高鳴る心臓。
「いのちゃん」
「ん?」
ごくりと飲み込んだ唾では、乾いた喉を潤すのに不十分だった。
「えっと…、いのちゃんは、髪の毛も綺麗だよね」
「ふ、…なに?今日は何の日?」
君と手を重ねている事が恥ずかしくなって話題を逸らしたつもりだったのに、結局はまた君を口説くような真似をしてしまった。
やっちゃったと引き攣る俺の顔に対し、いのちゃんはくすくすと笑って手を離すと、今度は、その手で自身の前髪を弄り始めた。
「だって、染めたことねぇもんなー」
変な話題を案外気にされなかった事に安堵しながら、俺も自分の手をゆっくり下ろす。
いのちゃんの髪の毛は、ただの黒髪とは言えども傷みを知らない妙なツヤ感があった。
つい、触れてみたいと考えてしまうその髪は、俺には随分と魅力的に映っていたのを覚えている。
男にしては少し長めのその前髪や襟足が余計意識をさせるのかもしれないが、彼の髪の毛は同性の物とは信じ難い程に美しかった。
確か転校初日。
君の性別の認識に戸惑ったのも、その髪の毛と、ぱっちりとした瞳の所為だろう。
しかし、内心ずっと思っていた事とはいえ、素直に言葉を発してしまう自分の口には少し腹立たしさを覚えた。
「染めないの?うちの校則緩いよね?」
「んー、興味ない」
君の表情的に、本当に興味がないんだろうなと思って、俺は笑みを零すと「そっか」と言って前を向き直る。
いのちゃんの茶髪も見てみたいような気もしたけれど、まあ黒髪は俺も気に入っていたし、特にそれを追求しようとも思わなかった。
いのちゃんとのこの距離感が、俺は好きだった。
ずっと喋り続けていなくても、隣にいるだけで落ち着くような、安心をするような、俺と君の間を流れる独特な時間。
……そんな時、海の方から俺の名前を呼ばれた。
そして気づいたのは、海の向こうの太陽がすっかりオレンジ色に染まっていた事。
だからきっと最後の競争でもするつもりなのだろう。
俺はその声に急かされるようにして立ち上がると、小走りで海の方へと向かった。
ちくちくと刺さる足の裏で、さっきいのちゃんに教えてもらった『星の砂』という言葉が脳裏に浮かんだ。
「…褒められちゃった、」
その後ろで、体育座りをし直したいのちゃんが零した言葉は、波の音で掻き消され、俺の耳には届かない。
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あんこ(プロフ) - ユリアさん» ユリアさん!ありがとうございます。゚(゚^∀^゚)゚。時間かかってしまいすみませんでした!是非、ゆといの楽しんで頂けると嬉しいです!! (2018年9月30日 12時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
ユリア - あんこさん、完結おめでとうございます!遅くなってすみません。まだ最後まで読んでいないのでゆっくり読もうと思います!新作はやまいのですね!やったーー(*´ω`*)嬉しいです。新作の方も楽しみにしてます! (2018年9月30日 0時) (レス) id: 5d6e48b7e5 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - めめさん» ありがとうございます!!1番しっとりした作品にするつもりです。見守って頂けますと幸いです。よろしくお願いします! (2018年9月15日 23時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
めめ(プロフ) - すごくしっとりしたこのお話の世界観が好きです。更新頑張ってください! (2018年9月15日 22時) (レス) id: edc3e92603 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - 佐々木さん» 佐々木さんコメントありがとうございます(/*´ `)/いやむしろドキドキ初挑戦中です(笑)ytin.....頑張りたい!!!(笑) (2018年7月3日 22時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あんこ | 作成日時:2018年6月16日 22時