#3 ラブ・クエスト【ars K.N】END. (ページ9)

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Lv25.「モテたい、君だけに」ページ9

「はぁ…私の初キッスが…」

　こうして鏡の前で唇をなぞるのは何度目だろう。

　あの悪夢の歓迎会以来、私は洗面所に来るたびに自分の唇を眺めては溜め息を吐いていた。

　肝心の大野くんはというと、あの時のことを一切覚えていないらしい。

　私にキスをしたことも、二宮くんにキスをされたことも。

　みんながどれだけあの時の事を話しても「俺はそんなことしない！」と一点張り。
　よって、私はいまだ彼から謝罪を受けていない。

　まぁ…別にもういいんだけどさ。

「そんなに智くんとのキスが良かったの？」
「ほっ…！」

　洗面所にひょこっと現れた櫻井くんは鏡越しで目が合うとニヤリと口角を上げた。

「初めてだったんでしょ？あれが。そりゃ忘れられないよね」
「べ、別にそういうわけじゃ…！ていうかっ、いつの間に帰ってきてたんですか！」
「たった今。ただいまって３回くらい言ったけど」
「あぁ…すみません。全然気が付きませんでした」「今日も家にこもってたの？」
「はい」
「ふーん…じゃあ、飯でも食い行く？」
「めし？」
「今日はみんな帰り遅くなるって。だから外に食いに行こーぜ」
「はぁ…でも、私でいいんですか？友達じゃなくて…」
「Aちゃんがいーの。ほら、早く準備して？オレ車出してくるから」

　…と、玄関を出て行ってしまった櫻井くん。
　私は部屋着から適当な格好に着替えるとそのあとを追った。

「店は俺が決めていい？」
「もちろんです」

　むしろ私に選択する権利など一ミリも無い。ここは櫻井くんにお任せだ。

　…けど、こんなリア充社会人が選ぶお店に果たして私が馴染めるのだろうか…。

　ここで難易度の高いオシャレなお店に連れて行かれても困る。どうか普通のお店でありますように…

＊＊＊＊＊

「はい、Aちゃん。好きなの頼みな」
「あ…うん！」

　目の前に差し出されたメニューには美味しそうな創作料理がズラリと載っていた。

　よかった…値段もリーズナブルだし店の雰囲気も全然耐えられる。
　櫻井くんって意外と普通の男の子だったんだ…。