#2 ラブ・クエスト【ars K.N】 (ページ21)

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「おお、いい感じである…」

　型に流し込んだ生地は昨日と全く見た目が同じだった。これはもう、成功と言ってもいいだろう。

　あとはオーブンに放り込んで待つだけだ。…と、その前に。

「美味しくな～れ！」

　いちばん大事な恋のスパイス。これを混ぜなくては成功とは呼べない。

「よし！えーと？１６０℃で３５分ね…いってらっしゃーい」

　オーブンにＩＮされたケーキに愛を込めて手を振り見送ったあと、私は片づけに入った。
　そしてリビングのソファで少し休憩。

　ちらりと時計に目をやると、まだ１０分しか経っていない。

　あぁ…長いなぁ。
　焼き上がるまで何してようか…

　あっそうだ！この間買った五十嵐ウタイのドラマＣＤを聞かなければいけなかったんだ。

＊＊＊

「くぅ～…ニヤニヤしちゃう～…」

　イヤホンから聞こえてくるウタイくんの声にただいま絶賛悶絶中。

　最初はソファに座っていたのが今ではもうその愛らしい声に体の力が抜けてしまって寝転ぶ状態。
　やっぱりたまらないよ、ウタイくー…

「んん？」

　突然感じた甘い香り

「あ！そういえばケーキ！」

　焼いている事を忘れていた。

「おっちょっちょ！」

　慌ててオーブン前に駆け寄る。
　一瞬、焼き時間をオーバーしてしまったかと不安になったがそんな事はなく、

「わぁ！あと１０秒！」

　むしろベストタイミングだった。

＿"ピー、ピー、ピーッ"

　焼き上がりのお知らせを鳴らしたオーブン。
　この子は私が愛を込めて作った生地をどのように変化させてくれたのだろう

　どんな魔法を掛けてくれたのだろう

　そんなワクワクと相葉くんの喜ぶ顔を頭に浮かべながら、私はゆっくりとその扉を開けた

「…」

　どうしよう。言葉が出ない。悪い意味で。

　一体なにが起きたというのか。
　私が昨日見たケーキはこんなのじゃない。

　もっとドーム状に膨れ上がっていたはずだ。
　なのに…

「ぺっちゃんこじゃないか…」

　なんで？
　どうして？

　オーブンに入る前はあんなにやる気満々な顔してたのに。
　私の恋のスパイスだってめっちゃ受け入れてくれたのに。なのになのに…
　なんでよぉ…

・

・

・

≪計量≫

　頭の中でぽんっと姿を現したその二文字。
　私は思わず唇を噛みしめた。