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午前０時を過ぎた頃、私は部屋で一人、五十嵐ウタイの顔がプリントされたクッションと向かい合っていた。
「これが相葉くんだとして…いやッ！できない！ムリムリ！恥ずかしい！」
ごろんとベッドに横になり、ジタバタと暴れる自分の手足。
生まれてこのかたキスなんてした事の無い私にとって、この練習はなかなかハードなものだった
「ふぅ…気を取り直して…」
五十嵐ウタイクッションに向かって唇を近付けていく。だけど、
「くぅっ…どのタイミングで目を瞑ればいいのか分からない！」
キス顔を魅せるベストな瞬間がどうしても分からなかった。
それに、唇をどんな状態でスタンバイさせておけばいいのかも分からない。
ぴったりと閉じていた方がいいのか、少し開けておいた方がいいのか、力はどれくらい抜いておけばいいのか。
もう…分からないことだらけだ。
「ぬー…まだまだぁ…」
それでもめげずに、私はウタイくんと向かい合う。彼を相葉くんだとイメージしてゆっくり、ゆっくりと唇を寄せていく。
「んぅー…」
そして自分なりのタイミングで目を閉じた…その時、
「…なにしてんの」
「！」
扉の隙間からこちらを覗く二宮くん。
「あ…あ……」
ここからでもよく分かる。
「………」
その目が軽蔑で染まっていることを。
「か、勝手にあけないでよ…！」
「開けてねぇ。開いてたんだよ」
そう言うと二宮くんは部屋の中に入ってきて、五十嵐ウタイクッションと私を交互に見る、
「お前なぁ…いくら好きだからってそういう趣味は…」
「ち、違う！これはキスの練習でっ…」
「キスだぁ…？」
「そう…あと、キス顔の練習も…」
「雅紀との？」
「はい…」
「まだ手も繋げてねぇのに？」
「ですよね…すみません…」
やっぱり、この練習は早かったんだ。
キスの前にまず手を繋げるようにならないと。
私ったら…先を行き過ぎた。
「いや、別に練習するなとは言ってないけどさ…その方法じゃキス顔分かんないでしょ」
「はっ…」
本当だ。これじゃ自分がどんなキス顔をしているのか分からない。
「それに、こんなクッション相手じゃ練習になんねぇっつの」
二宮くんは私からひょいっと五十嵐ウタイクッションを取り上げて、部屋の隅に投げ捨てた。
そしてそのままベッドに腰を掛けると、私にぐいっと近寄って
「俺が相手してやるよ」
その手を私の肩に回した。
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作者名：水兎
| 作成日時：2017年7月11日 16時
