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ふらりとその辺のカフェに入った誉のあとをついて行くようにAもその領域に足を運ぶ。
店内はアンティーク調で気品のある内装で、観葉植物と本棚がその雰囲気をより引き立てていた。
Aは自分がここにいていいのか、と自問しながら誉さんの後をついて行く。
堂々として長く細い脚を前へ前へと持っていく広い背中はこのカフェの雰囲気に合っていて、まるで元からここに住んで育ってきました、と言っているようだった。
窓から外の風景が見える向かい合った二人席で足を止める。
「ほら、座りたまえ」
誉はAが座るであろう席の椅子を引き、エスコートする。
今までされたこともなかったそれにどきり、とした。Aはこんなことまでサラリとやってしまうのか…と胸中で呟いた。
「あ、ありがとうございます」
そういって席に座ると、誉はいいんだよ、と言って座る。
座ることによって誉との顔の距離がより近くなり、その秀麗な眉目にAの息が詰まりそうになった。
一息置いて、誉が口を開いた。
「さて、肩の力を抜くがてらに紅茶でも飲もうではないか」
「……すみません、私、コーヒー派です」
「おっと、それは失礼したね」
「あはは、誉さんは紅茶派なんですね。上品で羨ましいです」
「上品……ねぇ」
上品、という言葉に頬杖をついて目を伏せる彼にAはやってしまったか、と悔いた。
「気分を害してしまったのならすみません。私、軽率な発言で人を傷つけてしまいがちですから」
自嘲気味に自分の欠点をさらしたAに誉は伏せていた目を向ける。
その瞳はまるで全てを見通してしまうようだ。
「いや、そう言ってもらえるのは光栄だ。気にすることではないよ。しかし君は私とよく似ているようだ」
そう言って誉は安堵したような優しい笑みを浮かべる。見たことのない表情と意外な言葉にAはぽかんと口を開けた。
誉はそんな様子を可笑しそうに見て
「私は存外、壊れてはいないようで安心したよ」
と言った。
その言葉の意味は、今はわからなかった。
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作者名：まそたろう | 作成日時：2017年10月7日 1時
