【A3!】昼下がりのソネット【有栖川誉】 (ページ2)

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「……なんだろう？これ」

MANKAIカンパニーの寮の前に控えめに置かれた白い封筒を手に、買い物帰りだった監督の立花いづみは怪訝な顔をする。

表と裏を繰り返し見ても宛先の名前も、差出人の名前も書いていない。筆跡すらも見当たらなかった。

白い封筒にはシーリングワックスで封をされており、薔薇の印璽(いんじ)が咲いていた。どこか気高い印象を与える封筒に立花いづみは少し気を遣いつつ寮に帰ることにした。

＊

「ただいまー」
立花いづみが声をあげれば聞こえたのか、ドタバタと慌ただしい音が聞こえる。
「監督センセー！おかえりなさい！」
玄関にいる私を迎えたのは短い梅重(うめがさね)を揺らしている七尾太一だ。七尾太一が帰宅しているということは、同じ高校に通っている兵頭十座や皇天馬あたりも帰宅しているだろうと察した。

晩ご飯がまたカレーだとか、そんなたわいもない談笑をしているとゆったりとした足音が太一の背後から聞こえくる。
いづみと太一が足音の鳴る方へ視線を向けると、スラッとした等身で非対称な臙脂(えんじ)色の髪が特徴的な有栖川誉が顔を出した。

「カントクくん、おかえり。寮の前に封筒は置いてあったかい？」
誉の尋ねで自身の右手に持っていた高価そうなそれを思い出す。
「もしかして、これのことですか？」
誉の前に持っていたものを差し出すと彼はああ、と嬉しそうな表情をする。

「これだ。感謝するよ、監督くん」
いづみの手から封筒を受け取った誉はくるりと踵を返し鼻唄を歌いながら自室に戻った。
その一部始終を見た太一は大きい水縹(みはなだ)の目をさらに大きく見開いて、不思議そうにしていた。
「……どうしたんスかね。あんな嬉しそうにして」
太一の零した言葉にいづみは頷いた。