今日も私は黄昏れる【誰ソ彼ホテル】 (ページ15)

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氷麗―15― ページ15

阿鳥side

Aちゃんは、小さい頃から強がりで、意地っ張りで、素直じゃない女の子だった

お人形みたいで可愛いとうちの母や姉たちは気に入っていたけど、俺はどうも子供らしさがないAちゃんのことが少し苦手だった

Aちゃんの家はお母さんが病気で、よく入退院を繰り返していた

お父さんは仕事へ行ってしまうので、近くに身寄りのないAちゃんを、うちの母がよく預かっていた

俺から見たAちゃんのお母さんはとても明るくて、でも怒ると少し怖くて、笑顔が似合う人だった

お父さんはおっとりしていて、でも少し頼りない感じで、優しい人だった。あの人が怒るところを俺は見たことがない

俺が10歳、Aちゃんが7歳になったそんなある日

Aちゃんのお母さんが亡くなった

「まだ7歳ですって」

「父親一人で大丈夫なのかしら」

「可哀想に……」

お葬式のときに囁かれる空虚な言葉

そんな中でも、Aちゃんは一粒も涙を流さなかった

俺はそれを見て、不思議に思った

母親が亡くなったのに、Aちゃんはお母さんのことを好いていたのに、どうして……

お葬式が終わってから、Aちゃんはぱったり笑わなくなった

元々そんなに笑うほうでもなかったけど、無表情にさらに磨きがかかったように、本当に人形になってしまったかのように感情を出さなくなった

俺はそんな彼女をみて、何か出来ないかと考えた

お小遣いも少ないし、大したことは出来なかったけど、子供ながらに少ない知恵を搾り出したのを覚えている

阿「Aちゃん、これあげる」

『……赤い、花？』

阿「彼岸花っていう花なんだけど……"また会う日を楽しみに"って意味があるんだって」

『彼岸花……』

我ながら花をあげるなんて恥ずかしいことをしたなと思うけど、一滴も泣かなかったAちゃんは、花を受け取ると号泣した

『おかあさ、おかあさああぁぁぁ……うええぇぇん……』

その時俺は初めて、Aちゃんが我慢していたことに気付いた

3歳も年下の女の子が、そんな器用なことが出来るなんて思わなかったから考えもしなかったんだ

Aちゃんは……本当は泣きたいのに我慢して、心配かけないように振舞って、強がって……本当に不器用な女の子だ

大泣きするAちゃんを見て、この子は俺が守ってあげなきゃって思った