氷麗―2― ページ2
『男のくせにうだうだ言ってないで少しは話を聞きなさいよ!』
支「暁さんも最初は暴れてたけど……」
『うるさい!』
私がとうとう耐え切れなくてサックス男にガツンと言うと、男は少しだけしおらしくなった
?「いきなり見たこともない場所に来て、驚くのは当然だろ……」
『私もあなたと同じ、気付いたら地平線のど真ん中にいて、当てもなくこのホテルに辿り着いた人間よ』
?「一体、ここは……」
頭がサックスだから表情は全く読み取れないけど、どうやら少し冷静になることにしたらしい
支「ここはあの世とこの世の狭間に存在するホテルでございます。所謂魂が彷徨い集う場所なのです。お客様は現世の何かしらのアクシデントのせいでこの世界に来てしまったのでしょう」
?「そ、そんな……それじゃぁ俺は、死んでるかもしれないってこと……?」
支「生きているか死んでいるか、覚えていないお客様も大勢ここにいました。お客様も、ここ黄昏ホテルでその羽を休まれてはいかがですか?」
『どうせ外に出ても行くところがないので、留まることをお勧めします』
?「わかり、ました……」
サックス男はようやくこの状況に順応する気になった
私は宿泊名簿を差し出す
『サインを』
?「あ……俺、名前……」
『分からないのね、それなら思い出したときで結構です』
支「それじゃぁ暁さん、ご案内よろしくね。あと言葉遣い、気をつけてね」
『……はいはい、分かりました。担当を務めさせていただく暁Aです。ではこちらに』
私はサックス男が付いて来ているか確認しつつ部屋へ案内する
そもそも私は接客業なんて向いてないのよ……無理やり笑顔を作るとかできないし
『こちらがお客様のお部屋です』
?「これが俺の部屋……」
アンティーク調の少し古びた部屋に変わりはないけど、この人の部屋はシンプルで殺風景だ
そんな中にある蓄音機とレコードの山だけに目が行く
頭がサックスなだけあって、ジャズとか好きだったのかもしれない
『このお部屋には、お客様の潜在的な記憶にまつわるものがあるはずです。それを手がかりに、お客様の記憶を取り戻す事が出来るかもしれません。そうすれば自ずと行き先も思い出されるそうです』
?「行き先……?」
『現世か、死後の世界です』
?「記憶にまつわるものって?」
『一概にこれだと言い切れません。私は記憶が元々あったので』
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作者名:みかん | 作成日時:2019年2月5日 16時