夏の恋は君と (ページ22)

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「...？Aちゃん？」

抱きしめたい先の彼女の涙で濡れる肩。

頬を包んで、目元と口を親指でなぞった。

真っ赤なうさぎのような目で見つめる君。

そんな君を見ていられなくて、目元にあるだけの優しさを込めたキスを落とした。

愛しい君が逃げてしまわないように。

ふるふると揺れる長い睫毛。
サイドテーブルには縫いかけの刺繍と既製服じゃないデザイン画。

この部屋に溢れる彼女のかけら。
それさえも愛でていたいと思うのは、これまでにはないこと。
この生ぬるい夏の暑さの中で、冬の服やら、来年の春の服やらを見るのも慣れた。

いつも、家中に散らばる彼女の描いたデザイン画や、刺繍のビーズを見つけて拾う度に、愛しさが溢れて止まらない。

「ゆ...うや..」

真っ赤に染まった、ビー玉みたいな瞳
そこから流れる涙。それさえも愛おしい。

この先にきっと言葉はいらない。

ただ、君がここにいるから。
今も、この先も、おれのことを好きだなんてどうだっていい。

もう色んな味を食べ比べるほど若くない。そんなことわかってる。
2人ともそうだ。

こんな一瞬に、流される場合じゃないことくらい。
だけどこうしていないと不安なのはおれたちどちらもだ。

でも正しいとか、真っ当な道を歩いていても幸せになれるなんて、今は考えられない。

2人が互いを愛し合うのが、いつか真夏の夢になってしまう日が来るとしても。

今はとりあえず、キスをした唇から溢れるばかりの好きが伝われば。

20170830