□モ□ノ□サ□シ□

4 ページ4

次の日、アタシはミホの望み通りに午前中から家を出た。

朝早くから母親と一緒に何かを台所で作ってるミホを見て「オザワクン」ってのは昼ご飯をここで食べるんだな、って判断したから。

狭い台所に置かれたダイニングテーブルの上にまで乗せられた料理を見つめながら、端に置かれたロールパンの袋を掴んで直接皿に乗せる事も無くそのまま口に運んだ。

普段だったら「お行儀が悪い」って文句の一つでも言う筈の母親もミホと一緒に浮かれてんのかチラっとアタシを見ても何も言わなかった。

口の中がパンの水分でカラカラになった頃、何気なくミホの後ろ姿に言ってみたのよね。


「何時頃だったら帰ってきても大丈夫？」

「え？夕方だったら大丈夫だよ」

「・・・あ、そ」


コイツも大概なバカだなって思ったわよね。

ポロっと言ってアタシを追い出そうとした事を肯定するなんて、コイツはどこまでバカなんだろうってね。

ついでに言えばこんなあからさまに誰かが来る準備をしてる母親もバカだなって思ったわよね。

今日何かがあるとか誰かが来るとか一切聞かされて無いアタシの目の前で母娘で浮かれて準備してるなんてバカ以外何があるっての。

でもその一瞬でアタシは全てを理解した。

ミホは勿論だけど、母親もアタシの事を【恥ずかしい】って思ってんだって。

姉を嗜める事無く姉の不条理な我儘を受け入れたんだ、って。

コイツらにとってアタシは【恥ずかしい】存在でしかねぇんだなって、理解したわよね。



夕方になるまでどこで何してたかなんて記憶にも残らないぐらいフラフラしてた。

公園とかそこら辺でずっとケータイを弄りながら時間が過ぎるのをただずっと待ってるだけだった。

空が茜色に染まり始めた事に気付いてアタシは立ち上がった。

そろそろ大丈夫かな、って思ってマンションまでの道を前に長く伸びた妙に歪な影を踏むように歩いてた。

真っ黒の影には何の表情も無くてこれだったら醜いとかカンケー無いよなって思ってたアタシは入口の人影に気付いて電柱の影にその身を滑り込ませた。

ミホとオザワクン。

ミホは楽しそうに、恥ずかしそうに背の高いオザワクンを見上げるようにその美しい顔を染めていた。

夕陽の反射よりももっと赤くその頬は染まってた。

そしてそのミホを眩しそうに見て笑うオザワクンの顔は驚くぐらい綺麗な顔をしていたの。

こんな綺麗な顔をしたオトコっているんだってビックリしたわ。





今まで見た事が無かった、あんなオトコ。

5→←3

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す