□モ□ノ□サ□シ□

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「俺色々あるから一回出るけど。あ、コレここの鍵ね」って渡された時に微かに触れた指先にドキンって心臓が跳ねた様に感じたのは、記憶の改竄なのかしらね？

ほら、過去とか思い出とかってさ。何かと自分の都合良く脚色されたりいい風に造り変えたりとかされない？

あぁでもそれならアタシの家族の記憶だって綺麗になってる筈よね(笑)じゃあやっぱりあの時ドキンってした様な気がするのはホントにそうだったのかな？どうでもいいけど。


カワキタが出た後の部屋をゆっくりと見回してみた。

まだ昼頃だろうに日が当たらない窓にはサイズの合ってないカーテンが掛けられてたし、ベランダって言える程のモノでも無いそのスペースにはやたら何か黒ずんだ乾いたヘドロみたいなのがこびり着いてた。

玄関を入ってすぐ左にあるドアを開けるとお風呂とトイレがシャワーカーテンで仕切られてあって、その間に小さな洗面台。

ドアの正面にさっき見た台所とは言えないモノがあって、その隣に洗濯機が置いてあった。

流しの上に造りつけられた簡易的な棚には小さな片手鍋と皿とコップが一つずつ。

流しの排水口は気持ち悪くて触らなかった。

冷蔵庫って無いのかなって思ったアタシはコンロの下にある小さな扉に気付いてそれを開けてみたらどうやらそこが冷蔵庫みたいで、中には何故かケチャップだけが黄色い室内灯に照らされてポツンと置いてあったのよね。

前の人のかな、なんて思いながらそのまま冷蔵庫を閉めたんだけど、どうして捨てなかったのか今でも解らない(笑)


カワキタに着いて歩いてた時は土地勘が無かったせいもあるけど結構駅から遠い場所なのかって思ってたら案外近くて、アタシのマンションは駅裏にある歓楽街の中の一角にあるって事はすぐ解った。

コインロッカーに入れてある荷物を取りに行こうと駅までの道にずらっと昼間から営業している色んな風俗店が軒を連ねてて、店の前に立っている男の人が珍しそうにアタシをジロジロ見てた。

そりゃそうよね。

どう見たってガキなのが風俗店の前を歩いてんだもん、それも昼日中。

上から下までジロジロ見られる事には慣れてたツモリだけど、逃げるように顔を隠すようにアタシはその通りを足早に駆け抜けて行く。

ネットで身体を売るのも店で身体を売るのも何も変わらないのにさ、あの時のアタシは一番下のあの風俗を卑しい事でみっともない、なーんて思ってたのかも。

みっともない、それどころか。

自分が一番底辺だった癖にね。

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