□モ□ノ□サ□シ□

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ケータイショップに行った時に身分証明を出せって言われたアタシは凄く焦ってた。

そんなもん持って無かったし、そんなもんがいる事さえ知らなかったし。


「えっと・・・お父さんからお金を預かって支払いに行って来てって言われただけなんで、持って無いんですけど」


チラっとアタシを見た対応してるオンナはそれ以上突っ込む事もせずに「コレに番号を書いて下さい」ってちっちゃい頃持ってたオモチャみたいなのを差し出した。字を書いたりスタンプを押しても下のレバーをジャッ！っとスライドさせたら真っ白になるアレみたいなやつ。

ケータイ代が毎月幾らとか知らなかったけど、プリントアウトされた請求額がそんなに高くなくてホっとしながら金を出して、サインをしながら「コレでバレたらどうしよう」って思ったアタシはそこにミホの名前を書いて逃げるようにショップを出た。


雨が降ってきたから丁度目の前にあったハンバーガー屋に入ってぼんやりと外を見つめてた。

霞んで遠くまで見えない昼間の繁華街はいつもみたいな汚らしい姿を晒す事無くその雨に溶け込んでる風に見えた。

ウチに置いてあった金魚の水槽が冬になるとヒーターのせいでよく結露してたけど、あの中から見える部屋の風景はこんな感じだったのかな。

アタシにとって楽しい事なんて何も無かった家だけど、水槽の中の金魚は乳白色に溶けたその世界はもしかしたら綺麗に見えてたのかな。

まぁでも実際は、この繁華街もアタシの家も明るいとこに晒されたら見るに耐えられないんだろうけどね。


ソレに気付いたのはトイレに入った洗面所でだった。

手洗い場の横に置かれてたバッグ。入った時は気付かなかったけど、誰かの忘れ物だろうか。

まだここにいるかもしれない、そう思ってドアの鍵を開けようとしたアタシの手が、視線が止まる。

閉められて無いバッグのすぐ上に見えた長財布だけを抜き取って、そのままアタシはトイレを出た。


「ﾔﾏｶﾞﾀ ｻﾕﾘ・・・」


財布の中に金はそんなに入って無かったけど、綺麗な顔が写ってる免許証と保険証が整理されて収まってた。


「1996年生まれって事は今年19、か」


顔が解る免許証はそのままにして数千円と保険証だけを抜き取りながらバッグの中に入れっ放しの買った生理用品を入れてくれた黒いビニール袋にそれを包み、縛ったまま途中にあったコンビニのゴミ箱に捨てて歩くアタシの足取りはちょっと軽い。

その感覚はネトゲでレアを引いた時に似てる気がした。

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