救いの手。in×yt (ページ5)

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俺が物心ついた時には父親という存在はいなかった。

母と俺の2人きり

母ときちんと顔を合わせることは年に数回しかなく、いつも朝起きればお金だけが置かれていることが日常だった。

たまに知らないおじさんが来てお母さんはどこに行ったんだ。お金の場所は知ってるか。と軽く殴られたり放り投げられることもあったなぁ。

中学に上がってすぐの頃、母が初めて誰かを連れて帰ってきた。

「裕翔！お母さんこの人と結婚するわ。だからこの人は、今日からあなたのお父さんよ」

貼り付けたような笑顔の男は、パリッとしたスーツを着こなしていて、どうしてこんな貧乏人の母と結婚するんだろうと不思議に思ったのが第一印象だった。

傍から見たら俺の今までの環境は地獄だったのかもしれないけれど、俺の地獄はここからだった。

スーツの男が連れてきたのは俺の兄になる、龍という青年だった。

龍は初めて会った時から、俺へのスキンシップが多かった。

風呂場で着替えていたら偶然を装って入ってきたり、夜中にフラフラと俺のベッドに潜り込んできたり。

去年の春、俺が中学三年生になったばかりの頃。

兄は無理やり身体を重ねてきた。

何もかもが初めてで、怖くて、痛くて、俺は泣き叫ぶことしか出来なかった。

でも誰も助けてくれなくて。

兄は俺を愛しているから、裕翔も俺を愛せと呪いのように唱えてきて、それが俺の心を壊すのに時間はかからなかった。

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