第25話 ページ25
ローズはキノを変な目で見たり怪しんだりしなかった。
「名前はなんて言うの？せめて名前だけでも教えてよ」
腕を掴まれてしまっているため、キノは逃げ去ることができず、諦めてローズに向き直った。
『わ、私は……キノ。キノ・ウランバルト……です……』
「キノ？変な名前ね」
ど直球に言われ、キノは少し困惑した。
『変……かな？ごめんなさい。よくわからない……』
ローズは相変わらずキノをじろじろ見る。
「キノって凄く綺麗ね。こんなに綺麗な子が近くにいたら、すぐにうちの村じゃ噂の的になってるのに。もしかして、あのお城から来たの？」
『お城？』
「そう。この山を降りて、ず〜っと下ったところに建ってるお城よ。そのお城にはあたしらくらいの娘がいるって聞いてたけどーーあんたじゃないの？」
ローズは池の縁まで行き、桶で湧き水を掬いながら言った。
咄嗟に閃いた。
ーーこれは……話を合わせたほうがいいかもしれない！
『じ、実はそうなの！私、そのお城から抜け出してきてーー』
「やっぱりそうなんだ！でも待ってーーあんた今、ウランバルトって言わなかった？」
ローズは桶を抱き抱えて立ち上がった。
『えと………そ、それはーー』
キノはどう切り抜けようかと、内心焦った。
ローズは探るような目でキノを見つめると、すぐにわかった！と声をあげた。
「それ、偽名ね！？城主の娘ってバレちゃマズイもんね」
『ーー……そーーそうなの！本当の名前は言えなくて……』
ーーお願い……早く帰って〜。
「ねぇ、ひとりでここまで来たの？？」
ローズは完全に興味津々のようで、村へ戻る素振りがない。
『そ、そうよ』
「……ふぅ〜ん」
ずっとじろじろ見続けられ、キノは緊張で落ち着かなかった。
「安心して。あたし、あんたのことは皆には言わないから」
『えーー？ほ、本当？』
「言わないわよ。言ったら、あんたもうここには来なくなるでしょ？」
『ぅ……うん……』
「ねぇ、明日もここに来れる？あたし、あんたともっとお喋りしたい！」
『え？私と……？』
キノは少し驚いた。
「そう。これも何かの縁だし。あたしとあんた、なんか気が合いそうだし。それに、仲良くしたい！」
『………も、勿論よ！』
キノは嬉しさで胸がいっぱいになった。
「じゃあこの時間にこの場所で！キノ、また明日ね！！」
そう言うと、ローズは桶を抱えて去っていった。
キノはローズの姿が見えなくなるまで、手を振って見送った。
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作者名：あっちゃん | 作成日時：2023年5月5日 9時
