第16話 ページ16
切羽詰まるような形相、先程までとはまるで別人のようにさえ思えてしまう。
強い光と強風を放ったまま、赫い石はキノの目の前に留まっていた。
それはまるで、手を伸ばしてくるのを待っているかのよう。
『……』
ーー………これを手にすれば……私は………。
ルイは魔法陣を出したまま、赫い石から放たれている強烈な風を防御するので精一杯だった。
「お前にそれは扱えないっ！お前はまだーー未熟だ！！」
未熟ーー
『んで……そういう時だけ……子供扱いするの……？』
怒りで、声が震えた。
『私はもうーー子供じゃない！』
「！よせ、キノッ！！」
ルイの静止を無視して、キノは赫い石を掴んだ。
カッッ!!
『「！！」』
眩しさで目が痛かった。
思わず目を瞑ってしまうほどの強い光。
手の中で、赫い石が脈を打っているのが直に伝わってきた。
まるで心臓のようーー。
そして、とても温かかった。
優しい温もりが、キノを包み込んでいく。
思わず、涙が溢れた。
また、キノの中であの不思議な声がした。
―――“継承者・キノ。我に願いを唱えよ”―――
ーー……願う……？何を願えばいいの？？
「キノ！私を願え！！」
ルイの言葉に、キノは勢いよく目を開けて父親を見た。
「継承者として相応しいのはこの私だ！キノ！私の名前で願いなさい！！」
『何故？』
酷く冷たい声で、キノは父親に言った。
「何故……？キ、キノ……どうしたんだい？私が赫い石をずっと求めていたのを知っているだろう！？」
『……』
冷え切った氷のような眼差しを向けられ、ルイは一瞬怯んだ。
「っーーさ、さあ！早く願うんだ！！」
キノの瞳が、ルイのはだけた胸元を捉える。
先程の如何わしい行いが思い出され、キノの恥辱と怒りが再び沸き上がった。
キノは赫い石を自分の胸に押し当てた。
『……願いは……決まりました……』
「おおっ、では私をーー」
ありったけの憎悪を込めて、父親を見据えてキノは叫んだ。
『二度と私に触れるな！近づくな！！私の部屋から出て行け！！！』
カッッッ!!!
強い光りが放たれ、その光りがルイを覆った。
光りの中からルイの絶叫が聞こえた。
強烈な光は一瞬で消えてしまい、ルイの姿もない。
強風も消え失せ、部屋の中は静寂に包まれた。
夢だったのかと錯覚してしまいそうになるくらい、何もかもが一瞬だった。
『っ……』
一瞬過ぎて、逆に怖かった。
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作者名：あっちゃん | 作成日時：2023年5月5日 9時
