今でもあなたは

29 ページ30

.


そこからはあっという間だった。


次から次へと曲が演奏され、会場の雰囲気は米津さんによってふわふわと変えられ染められる。


曲調が大人しめな曲の時は静かに聴き入り、激しめな曲の時は手を挙げてノる。





そして迎えた最後の曲。


米津さんのライブはあまりMCが多くないが、最後の曲を前にして米津さんはマイクスタンドに向かって口を開いた。




「実は今日ね、いつもとセットリストを大幅に変えてみたんですよ」




その言葉に、「おお〜！」「気付いてたよ！」と客席から声が飛ぶ。




「大幅に変えたって言っても、いつも序盤から中盤にかけてやる曲をまだやってないってだけなんですけど」




あはは、という笑い声。


私もこのライブの前にセットリストをいくつか見てきたけど、確かにやってない曲1つあるな…と思っていた。




「何でかって、知り合い？にちょっと助言を求めまして。
1か2か3、どの数字が良い？って」


『え……』




ちょっと、待って。

その話どこかで…




「そしたらね、その子1が良いって言ったんですよ。
で、何で？って聞いたら、迷ったら一番最初のものって決めてるんで、って言われまして」




小さく笑いながら話す米津さん。


対してきっとだらしなくぽかんと口を開けているであろう私。


だって、それ、昨日聞いた話だよね？あれ？




「なるほどなって思いました。
ということでいつもその曲はもっと前にやるんですけど、今日は最後にやります。
ありがとうございました、米津玄師でした」




ギターを手にした米津さん。


一度目を閉じ、再び開けて。




その瞬間に、一瞬目が合った気がした。





そして始まったのは、




『アイネ、クライネ…』




心がぎゅっと掴まれた。



.

30→←28

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す