その79 爽やかな、罪の香り。 by主人公 ページ6
浜辺に立っていた。
吸い込まれそうなほどに青い空。透き通ったエメラルドグリーンの海。
打ち寄せる透明な波が、足元の砂をさらっていく。
ここはどこだろう。
見慣れぬ風景をぼんやりと眺めていると、どこかから声が聞こえてきた。
「お前はクズだ。じきにクズ収容刑務所へと移送される。」
お前って私のこと?私が刑務所に?
そんなの、おかしい!
クズを収容刑務所に入れる際にはクズ裁判が必要なはず。
それとも、私の知らない間に規則が変わったのだろうか?
ん?そもそも私はクズなのか?
「何故クズなのかって?それは自分で考えることだ。」
どうやらクズなのは確定らしい。
何故、か……。
思い当たる節はいくつもある。
社長の暗黒物質を何度も拝借したことだろうか。でも、それは皆やっている。
クズ抜きしたクズ肉で焼き肉パーティーを楽しんだことだろうか。しかし、これも(結翔以外は)皆やっている。
いや、もしかすると__
謎の声が頭の中で鳴り響く。
「明星刑務所看守長としての尊厳を守り抜きたいのであれば、そこにあるガラス瓶に入った液体を飲み干すといい。」
周囲を見渡すと、それはすぐに見つかった。
半分ほど砂に埋もれているそのガラス瓶には時折波がかかり、きらきらと陽光を反射している。
掘り出してみるとその中には薄い水色の液体が入っていた。
決心がつかず、私はただ瓶を眺めていた。
どれくらい時間が経ったのだろう。
気が付くと、辺りは暗くなっていた。
空は濃い群青色に染まっている。
私は手に持っていたガラス瓶を、海に投げ捨てた。
海面に触れると瓶は一瞬だけ輝いて、そしてすぐに沈んで見えなくなった。
「尊厳」なんて、知らない。
そんなものは元から無い。
だって私は偶然看守長になっただけの普通の人間だし。
クズになったところで、刑務所に入ったところで、失うものなんて何もない。
私は海に背を向けて歩き出した。
辺りは暗くて何も見えない。
けれどもそのうち夜が明けて、周囲の様子がもっとよく分かるようになるだろう。
いつか明星刑務所に帰れるはず。
帰った途端に捕まってクズ収容刑務所に入れられるとしても、それはそれでいい。
どうせなら明星刑務所に入れられたいかな。
でも、そうすると気まずいかな?
内部事情にも詳しいわけだし、普通は他の所に入れられるか……。
そんな取留めのないことを考えながら、私はひたすら歩き続けた。
その80 社長、目下逃走中。 by主人公→←その78 箱の中には……? by社長
8人がお気に入り
「オリジナル」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:紅葉姫 | 作成日時:2024年2月18日 20時