:完璧 ページ3
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「…芥川くんさ」
「はい」
「普通に仕事できるよね」
教えた事を全て理解し、その通りに熟す芥川くん。
ある一部分だけ見逃せば、他は完璧。
正直、大宰さんが云っていた"他の部下"より圧倒的に優秀だ。
はぁ、と一つ息を吐けば俯いていた顔を此方に向けてきた。
「書き終えました」
「ん、はいはい、ご苦労様」
報告書に目を通せば、私が教えた通りに書かれていた。
普通、人間は教えられた事をその通りには出来ない。
癖が残ったり、それを上回ったり、逆にそれ以下だったり。
私もそうだ。
中也さんや太宰さんに教えられた事を、自分なりに理解し自分なりに少し変えた。
だが、芥川くんは違う。
私が教えた事全てその通りに熟すのだ。
「はぁ、意味解んない」
「…僕の報告書が、ですか」
「ううん、そっちじゃない。芥川くんが書いた報告書は完璧だ。
このまま、太宰さんに出して大丈夫」
意味が解らないのは太宰さんだ。
太宰さんは何故ここまで芥川くんに鞭を与えるのだろう。
何か理由が有ることは解っている。ただ、もっと他にやりかたはあるのでは?
「…はぁ、疲れたよ芥川くん」
「左様ですか」
冷たく言葉を吐く芥川くんは、真っ黒い目をしている。
笑う事はあるのだろうか。
芥川くんの笑った姿を一度も見た事がない。
芥川くんはいつもどんな気持ちなのだろうか。
生き甲斐の太宰さんに酷く云われて辛いだろうか。
尊敬する師の太宰さんに殴られて苦しいだろうか。
泣いた事は無いのか。笑った事は無いのか。
任務で傷を負った時、痛いと思った事は?
誰かに助けを求めた事は?
「ほんっと…」
疲れた。
「抱き締めてよ、芥川くん。疲れたから」
「…それは、命令ですか」
「酷い云い方するね。そうだよ、命令」
手を広げて待ってみると、芥川くんは顔を傾げた。
芥川くんは誰かを抱き締めたこと、抱き締められたことは無いのか。
「そっか…」
褒められた事はそこまで無いのかな。
抱き締められるのを待っていた体を動かして、芥川くんを抱き締めてみる。
芥川くんは抱き締め返しては来なかった。
「…今日も私、頑張ったな。芥川くんも頑張ったね」
「…??」
「そんな不思議がらないでよ。」
強く強く抱き締めて、自分の疲れを全て消したかった。
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「…あ」
「え」
上司にそれを見られるとは思ってなかった。
「すまねェ、出直す」
「待って中也さん違う」
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苺みるくラテ(プロフ) - 更新楽しみにしてます! (12月18日 1時) (レス) id: 00ab994726 (このIDを非表示/違反報告)
よもぎ(プロフ) - めっちゃ好きです…更新楽しみにしてます!! (9月8日 23時) (レス) id: eaf63886af (このIDを非表示/違反報告)
眠いちゃん - めっっっちゃ好き…… 続き楽しみにしてます (5月27日 19時) (レス) id: 07b28c2f89 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:へげえ | 作成日時:2023年5月4日 20時