第20話:とある一方通行の奇行(1) ページ45
.
学園都市に存在する能力者の中で最強は誰か。道行く人に問えば、「第一位」という答えが返ってくるだろう。しかしその「第一位」は自分が「最強」ではないことを自覚している。自分を最強だと囃し立てる人間に人差し指を向けて「ぬかしおる」と大笑いするかもしれないくらいには自覚していた。そもそも世間一般が思い描く「第一位」と、実際の「第一位」はイメージが全く噛み合っていないのだ。スキルアウトは「人をゴミクズ同然にしか思っていない怪物」と言い、研究者は「一度牙を剥けば自分達の手で制御出来るとは思えない危険で貴重なサンプル」と言う。
見えた、と「第一位」は口を動かした。
しかしそんな「イメージ」は、「第一位」が聞けば人差し指を向けて「馬ァ鹿なンですかァ？」と目尻に涙を溜めながら大笑いするくらい本人は自覚していない。
タッ、と人一人が上空から飛来したにしては軽すぎる音が鳴る。人間をゴミ同然としか思っていない怪物だと思われている「第一位」。危険で貴重なサンプルだと思われている「第一位」。
彼らがこの光景を見たら、異口同音に「人違いです」と奏でるだろう。
貸し倉庫の様な建物が三つ立ち並び、その巨大さのせいでメインである研究所がちっぽけに見えてしまっている。自分のIDがまだ生きていることを知っている「第一位」は、ノックすらせずに研究所の中へ入っていった。
「芳川サン、どっかの馬鹿が打ち込みやがったウイルスに感染する前の最終信号の人格データってどこにある？」
ノックどころか挨拶も無い。ランドセルとソプラノリコーダーが似合う高校教師が見れば説教確定だが、
「……どこでそれを知ったのかしら。わたしはつい数時間前に気付いたのに」
「外出禁止の最終信号が警戒心ゼロで話しかけてきたら異常事態を想像すンだろ常識的に考えて」
「貴方の口から『常識的に』なんて言葉がまだ出てくるのね。喜ばしいことだわ」
そう。誰もが目を剥き、口を揃えて「この人替え玉です偽物です」と言いかねないこの事態。そんな事態を引き起こしているのだと理解しているであろう「第一位」は、これが自分らしくない行動だと分かっている。
一万三十一人を躊躇無く殺した虐殺者は、誰かを助けようとしているのだ。
たった一度、寝食をを共にした一人の少女を救うべく、「第一位」はここまでやってきた。
例え、自分が「第一位」どころではなくなってしまうと知っていても。
第20話:とある一方通行の奇行(2)→←第19話裏:今更何を言ってるンだか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「成り代わり」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ムスカ(ﾊﾞﾙｽしないで)(プロフ) - 凄い面白いです！！原作に近いのに原作とは違うイレギュラー(一方通行ちゃん)の続きが気になります…!!応援してます！ (2017年7月20日 2時) (携帯から) (
レス) id: 73140b95f1 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - Σ(ﾟДﾟ)ｽｹﾞｪ!!面白かったです！頑張ってください (2017年5月17日 15時) (レス) id: 8490ef35d5 (このIDを非表示/違反報告)
ガルシア - 頑張ってください！ (2017年5月5日 16時) (レス) id: 980d9fadba (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：菊桜 | 作成日時：2017年4月27日 19時
