キス魔の轟君。【轟焦凍】 (ページ9)

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キス魔　7 ページ9

*

「...今、なんて、」

さっきまで一言も喋らなかった轟君が声を出す。
私が勝手に大声で叫んでも、聞いてくれてた。

...そういうところだよ。轟君。
もっと好きになっちゃうじゃん。

『...轟君のせいで、舌も痛いんだから。』

そう、舌も(・)痛いの。

間違って七味かけたのも轟君のせいだし、
胸が苦しいのも、轟君のせいなんだから。

倒れた椅子を直して、教室の扉に足を運ぶ。

泣きすぎちゃったかな、目が重たい。

気づきたくなかった気持ちを誤魔化すように、
自分の足元を見ながら歩く。

...知らない方が、楽だったかなぁ。

ｷﾞｭｯ

...後ろから、ふわりと香る柔軟剤の匂い。

私の腰に回る筋肉質の腕と、背中から感じる
心地よい温もり。

...なんで、

「待て。」

「俺のせいで舌痛いって、どういうことだ。」

なんで、まだ私を気にかけてくれるの...？

『...離して、よ。』

「離さねぇ。なぁ、どういうことだ。」

両手で私の腰に回る轟君の腕を上げようと
しても、ピクりとも動かない。
...すごい、男の子。

『...轟君のこと考えてたら、お昼ご飯に
間違って七味かけちゃったの。』

...今更だけど、すごい恥ずかしい。これ。

『もっ、もう言ったから、離してよ...！』

“好きじゃないんでしょ。”

そう言おうとしてたのに、

「俺の事、考えてくれてたのか。嬉しい。」

『───っ、！？！？』

そんな優しく耳元で囁かれたら、言えるわけ
ないじゃん。ばか。

『また好きに、なっちゃうから！離してっ！』

無理やり腕の中から抜けようとしても、一瞬
たりとも余裕ができない轟君。

...あぁ、もう。やめてよ。

『好きに、なっちゃうから...っ、！！』

好きが溢れて、止まらない。

「もう“なっちゃった”って言ってただろ。」

.

「好きだ。」

.

その一言で、一気に静まり返った教室。
夕暮れの空を背景に、2人きりの空間が広がる。

...ねぇ、今、なんて、

「Aが好きだ。好きなんだ。」

『...嘘、つかないでっ、』

「嘘じゃねぇ、本気だ。」

声で伝わる、轟君の必死さ。

まだ“個性”続いてるの？タチ悪いよ。
私はもう、諦めなきゃいけないの。

...わかってるのに、

期待してしまう自分がいるんだ。