揺らぐ陽炎。[黒尾鉄朗]

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夢を見る。


もう18年も生きていると、そりゃたくさん夢も見る訳で。
これが夢であるということも、分かるようになってしまった。
全てがフィルター越しに動く。

「お姉ちゃん、お母さんみたいにAのめんどう見れるかなぁ…」
「おねーちゃん？」

おでこに触れている手は暖かい。
髪の毛を撫でると、不安そうに私を見る。

「お父さん、最近怖いよね。」
「うん、おにさんみたい。」

ふとドアに目をやると、鍵がかけられていることに気づく。

逃げているんだ。

直感的に感じる。
そのとき、ガシャン！と何かが割れる音が響く。

「ひゃっ！」

姉は咄嗟に耳を塞いだ。
父は変わってしまった。
母と別れてから、まるで別人のようになってしまった。
優しくて、面白い父の姿はもう無い。
姉を見上げるとその瞳いっぱいに涙がたまっているのがわかる。

ぽたり、滴が私の頬に落ちる。
それは雨みたいに私を濡らす。
フローリングの上、膝枕をされている私。

東京のビル郡の光が遠くに見える。

「おねーちゃん、悲しいの？」

姉は少し考えるようなそぶりをする。

「うん、少しだけね。
Aだってお母さんいなくて寂しいでしょ？」
「うん、さびしい。でも、おねーちゃんいるから平気！！」

私は歯を見せて笑う。
本当は、そんなことなかったけど。

「……そっか、そうだよね。……お姉ちゃん、頑張るから…A、頑張るから…」


姉はまた大粒の涙を流す。
次から次へと涙が浮かんでこぼれていく。

「ーー！！」

がしゃん、また叫ぶ声が聞こえた。
姉はまた私を強く抱き締める。

「わっ！」

それに驚いて、声をあげた。

「…本当に、お父さんどうしちゃったんだろうね。」
「うん…」



夢が覚める。
覚めていくのが、分かる。
深海から手をのばして、陸地に這い出ていく。
そんな気分で、夢から覚める。
瞳を閉じる。
瞬間、また、瞳を開く。

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