進んで悪になり得たか。 (ページ26)

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とある夜。

私はつい先程くすねた、冷たくなったたい焼きを頬張って夕食としていた。

あの日以来、ロクなものを食べていない。

自分でもわかるほど痩せ細っている気がする。

『…お腹すいた』

一日一食食べれれば良い方。

酷かった時は2日間食べれなかった。

最後のたい焼きのしっぽを一気に口の中に入れ、私はそれを飲み込んだ。

『どうしようかな…これから』

その時だった。

「君が、あの若頭の義妹だね？」

暗闇から声がした。

『…誰だ』

「ふふ…オール・フォー・ワン、といえばわかるかな？」

『オール・フォー・ワン…！？』

廻さんからきいたことがある。

昔、この社会を一時的にヴィラン社会へと成り立たせた人物、とか。

個性までは知らない。

ただ、この人は…。

『ヴィラン連合側の、人間…』

「流石弔の愛人だ…しっかり把握してくれているんだね、嬉しいよ」

『弔…弔は、今どこ』

「そんな事より…タルタロスが崩壊したのは知ってるかい？」

『え…』

「つまり、脱獄犯がうじゃうじゃいるのさ…素敵だね」

『…まさか、若…若も、そこに…！』

「勘の良い君ならわかってくれると思ったよ。是非会わせてあげたいんだけどねぇ…流石の僕も場所まではわからないのさ」

『自分で探すっ！』

「そう言わずに…僕から手伝わせてくれよ」

すると、暗闇から手が伸び、私の額を掴んだ。

『！？離せっ！！』

「君の個性…可哀想だね、実に使いにくい個性だ…。この個性と交換してあげよう…きっと良い結果が得られるよ」

『やめろッ…！』

頭から足まで、ふわふわとした感覚が漂う。

味わったことのない感覚に、吐き気がする。

スーッと抜けていくような、空気が体全体に入ってくるような、そんな感じさえする。

「ふふ…。もし、良い結果になれば是非戻ってきてくれよ、この異能解放戦線に」

私はその場に倒れ込み、彼の姿が消えるまでその先を見つめた。

初めて顔を見た。

目がなくて、ぐちゃぐちゃの、酷い顔。

脳裏にこびりつくような、悍ましい声。

私は、そんな恐怖さえするような感覚に怯えながら、眠りについた。