進んで悪になり得たか。 (ページ20)

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sixty six ページ20

『んん…』

「ん、起きた？」

真っ白な布団の上で、ズボンだけを履いた弔が私の頭をそっと撫でた。

事後は腰が〜、とか何とか言うが、彼の宣言通り優しくしてもらって、腰痛など何もなかった。

『…いいのかな』

「まだ言ってんのか。家族と恋人は別だろ」

『…そう、だよね』

今更だが、どうにも恋人やら愛人やらを作る気にはなれなかった。

それらの言葉を思い浮かべると、廻さんが脳裏にチラつく。

それは、私を引き留めているようで、死穢八斎會の呪いのような物なのかもしれない。

色んな風に捉えられてしまって、落ち着く事ができなかった。

「オバホに会ったら言わなきゃな、娘さんを下さいって」

『一応、妹に当たるんだけどね』

「まぁどうでもいいだろ。どうせ俺のモンだし」

弔はベッドから降りて、服を着た。

その姿を眺めてると、彼から上着とズボンを投げられる。

「それ着ろよ」

『ありがとう』

私は昨日の下着を付け直して、彼に借りた服を着た。

ズボンは少しゆるかったが、骨盤に引っかかりなんとかずれ落ちることはなかった。

『これからどうするの』

「そうだなぁ…。俺はしばらくここから離れなきゃならない。それも全面戦争へと準備だ」

『…それ、どのくらい大きなものになる？』

「街がいくつかなくなるくらいかな」

『大事になるんだね』

「当たり前だろ。一気にヒーロー社会が傾く事態になるんだからな」

彼は楽しみだ、と肩を震わせクツクツと笑った。

「お前はそれまでに義足に慣れておけよ。流石に、お前を守り抜く自信はない。俺はある力を奪わなきゃならないから」

『…わかった。頑張る』

「あぁ。これが終わったらお前の気にするオバホもしっかり解放してやるから。あー、でもアイツと同居はナシな」

『なんで、腕とったの弔でしょ』

「義手つけるって言っただろ。それに慣れてもらって一人暮らしでもしておけ」

『冷たいなぁ…お義兄さんにあたるのにね？』

「お前…マジでお前の義兄じゃなかったら見捨ててたからな、オバホのこと」

『はいはい、ありがとうございます』

「…じゃあ、もう行くから。次会うのは多分、4.5ヶ月後になる」

『わかったよ、弔』

弔は私に近づいて、触れるだけのキスをした。

「またな、茉莉」

『またね、弔』

この時の私は知りもしなかった。

まさか、全面戦争があんな悲劇を招くなんて。