第九話「魔術」 ページ10
その後、ちょっとした空き時間にわたしはアーサーに呼び出された。
アーサーはわたしを空き教室まで連れて来ると、意を決したように口を開いた。
「あ、あのな、A。
俺は何があっても、お前らの兄貴だからな!」
「……え?」
的外れな発言に、わたしは首を傾げる。
あれ、わたしは例の話のことで呼び出されたのではなかったか。
「何か悩みがあるんだったら、その、聞いてやらねえこともない! だから、告白だけして死のうなんて馬鹿なこと考えんな!!」
ああ、とわたしは納得する。
恐らく、アーサーは勘違いをしているのだ。
わたしが何か悩んでいて、アルフレッドとのデートで未練を晴らしてから命を絶とうとしているのだと。
しかし、あながち間違いでもないので誤解と解く説明が思い浮かばない。
(結構濁した言い方だったから、勘違いするのも無理は無いかも知れないけど……。)
「ほら、俺が魔術部入ってんの知ってるだろ? 普段は絶対に秘密だが、お前の悩みを晴らすことぐらいなら何とかなるはずだ!」
そうだ、アーサーは魔術部だったか。
いつもならアルフレッドと二人して馬鹿にしているところだけれど、今回……というか最後になるだろうが、話に乗ってみることにした。
「じゃあ、魔術で未来を変えることはできる?」
「……たとえば?」
「数日後に必ず死ぬと決まっている人間を生かすこと、できないかな。」
それを聞いて、アーサーは肩を竦めた。
「できないことはない。が、その魔術にはそれなりの代償が必要になるからやめた方がいい。」
「! それなりの代償って?」
「人間一人の命を助けるなら、それに見合った人間一人の代償が必要になる。……それをやって悲劇を繰り返している奴を知ってるから、お前には手を出して欲しくない。悪いがな……。」
つまり、わたしの命を助けるとしたら誰かの命を犠牲にしなければならないということ。
わたしの為に誰かが死ぬなんて、そんな方法で助かっても嬉しくも何ともない。
(そんなことになったら、わたしは一生わたしを責め続けて生きていくかも知れない……。)
「じゃあ、いいや。この話、アルフレッドには絶対に秘密だから!」
「えっ、おい、話はまだ……!!」
まだ何か言っているアーサーを置いて、わたしはアルフレッドの元へ向かった。
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作者名:ひまり@靴下 | 作成日時:2016年2月20日 17時