第二十九話「脅迫」 ページ30
ふと、アーサーの言葉が頭の中に浮かび上がった。
────『人間一人の命を助けるなら、それに見合った人間一人の代償が必要になる。』
再び、あの魔術が使うことができれば。
わたしはアルフレッドの命を助けられる。
アルフレッドに会える。
(アルフレッドに、もう一度……。)
いいや、もう一度だけなんて嫌だ。
ずっとアルフレッドと一緒にいたい。
ずっとずっと、あの幸せな日々を過ごしていたい。終わりになんてしたくない。
たとえそれが、アーサーやフランシスにとっての悪夢だとしても。
「……アーサーは、もう終わりにしたいんだね。」
アーサーの表情が少しだけ明るいものになった。
「あ、ああ! こんな悪夢、もう終わりにしよう。それで、アルフレッドの分まで────A?」
「……ごめんね。」
わたしは素早くベッドから降りて、窓辺へと駆け出した。予想外の行動に出たわたしに呆気をとられて、身動きがとれず青ざめる二人。
「アーサーが終わらせるなら、わたしも終わらせようかな。そうしたら魔術なんて使わなくてもアルフレッドに会えるもんね。」
「A、何してるんだよ!」
窓の外を見る。
────三階ぐらい。十分脅せるような高さ。
わたしはぐっと口角を上げた。
「いいの? わたしがここから落ちれば、アーサーはアルフレッドもわたしも失うことになる。今までの七日間だって無駄になるよ。」
悔しげに奥歯を噛み締めているアーサーの手には、魔術に使うあのステッキが握られている。
さあ、あともう一押し。
あと少しで、アルフレッドに会える。
「じゃあね、アーサー。
決めるのはアーサーだけど、わたし達両方を失いたくないなら……わかるよね?」
わたしはそっと、窓枠から滑り落ちた。
アルフレッドの為なら何でもできる。
壊れそうなくらいその想いに支配されてしまっているわたしは、幾度も繰り返された魔術に取り憑かれてしまっているのかも知れない。
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作者名:ひまり@靴下 | 作成日時:2016年2月20日 17時