第十一話「喧嘩」 ページ12
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アーサーから借りたノートの課題を写していると、ふとアルフレッドは口を開いた。
「ねぇ、あの眉毛と何の話をしてたんだい?」
え、とノートから顔を上げる。
アルフレッドは手を動かしているものの、あまり集中できていない様子でわたしの方をチラチラと伺っていた。
「何で?」
「別に。眉毛のくせに珍しく真剣な顔をしてたし、様子がおかしかったから。」
「ふーん……。」
確かに、アーサーが真剣な表情を見るのは生徒会長として活動している時ぐらいのものだ。
長年一緒に過ごしてきた弟分(本人は認めていないが)のアルフレッドにとっては、それが気味が悪くて仕方がないのだろう。
わたしでさえ、こんなことになっていなければ嵐でも起こるのかと心配になってしまう。
「で? 結局、俺には教えてくれないのかい。」
「まぁ、アルフレッドには教えられない話ではあるよ。」
アルフレッドは鼻で笑うと、自嘲するような笑みを浮かべた。
「……あの口煩い眉毛には言えて、何でヒーローの俺には言えないんだい?」
「アルフレッド、」
「ヒーローである以前に、俺は君の幼馴染みなんだぞ。それに、俺は、…………。」
シャーペンの芯が折れる。
わたしは不機嫌なアルフレッドを見据えて、そっと言い返した。
「わたしにだって、アルフレッドに言えないことぐらいあるよ。」
「……ふーん。」
アルフレッドはわたしの発言が気に入らなかったのか、乱暴にシャーペンを置いて自分のノートを持ち上げた。
「……アルフレッド?」
はあ、とわざとらしい溜め息を吐くアルフレッド。
「…………A。君、最近変だよ。」
不意を吐かれて狼狽えるわたしを一瞥すると、アルフレッドはずかずかと自分の座席へ戻っていった。
「え、ちょ、アルフレッド!? 課題は、」
「いい! 残りは自分でやるんだぞ。」
自分でやると言いつつ、座席に戻るなりアルフレッドは机に突っ伏してしまっていた。
(……わたし、何か変なことでも言ったかな?)
確かに、最近わたしの様子が前と違うのは分かる。命を落とすその瞬間まで、アルフレッドと過ごすいつも通りの日々を大切にしたいからだ。
「喧嘩してる時間なんて無いのに……!」
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作者名:ひまり@靴下 | 作成日時:2016年2月20日 17時