【歌い手】ラ上司、ら部下。Part4【センラ】

one-hundred‐thirtyeight ページ46

うらたさいど

「……あくびさん。俺、やっぱりらがちゃんの所行きます。」

「っは、？あんた、だって行かないって、」

焦ったように彼女は立ち上がる。それもそうだ、本来俺は話を聞くだけという約束で来てるのだから。

「ごめんなさい。でも…仲間、なので。」

助けたい。好きな子だからとかそういうのは全て抜きにして、仲間が泣いてるんだ。助けなくて何がリーダーだ、何がうらたぬきだ。彼女と、直接話したい。そう顔を上げてはっきりと伝える。

「…ｯ、行ってきな、それじゃああたしに邪魔出来ることなんてないからさ。」

ふっと息を漏らして彼女は口角を上げた。その表情はどこか寂しそうで。

「すみません、あくびさん。…行ってきます。」

スタッフルームに背を向け、らがちゃんのいる部屋に向かう。
扉越しでも伝わる空気の重み。ぴりりと皮膚が焼け付くような雰囲気に少し気圧される。

コンコン、と控えめにノックをしても扉越しに見える彼女はヘッドホンから聞こえる音に全神経を集中させていて、ノックの音など聞こえていないようだった。
がちゃり、ドアを開けるとさすがに気が付いたようでへなりと崩れ落ちた。

『うら、たん……？なん、で、仕事じゃないん……？』

「らがちゃん。君に、直接。伝えたいことがある。」

そう言って俺は彼女を抱き寄せる。触れるくらいの弱い力で、そっと。

「……もっと、頼って。」

『……え、』


「何があったの、俺に聞かせて。」

なんとなくの概要はまーしぃからのLINEで把握はしている。でも、彼女の口から聞かなければ意味が無い。
らがちゃんは、俺の肩に額を寄せてぽつり、ぽつりと話し始めた。

『先輩が女の人連れてて。楽しそうで……。辛かった。それに傷つく私が、酷く醜く思えて。気持ち悪かった。自分が、きらいになった。歌い手やる資格なんてないと思った……。』


箇条書きのように文章にすらなっていない言葉を必死に口から紡ぐ彼女の肩は震えていた。

『なぁうらたん。私、歌い手辞めていい……？』

「……辞めていいよ。」

その言葉に、彼女の震えが一瞬、止まる。

「でも、らがちゃんはいいの？辞めていいの？らがちゃんにとって、浦島坂田船はなに？歌はなに？ファンは？…………歌い手って、なに？」


そう言って彼女の体を引き離し、目を無理やり合わせるとらがちゃんはびくりと体をふるわせる。


『私、は……』

one-hundred‐thirtynine→←作者

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す