あなたに贈るセレナーデ【蛇賀池照】 (ページ10)

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8.お願いページ10

「花河さん…」

後ろから私に声をかけてきたのはかつてクラスメイトだった花河さんだった。

ドクンドクン

花河さんの姿を見た途端冷や汗と心臓が止まらなくなる。
可愛らしくふわっと笑う花河さんの笑顔が私はとても苦手だった。
花河さんはクラス…いや学年の人気者で人当たりが良くて、私もずっと憧れていた。

でもそんな花河さんは…

「久しぶりだね。前園さんすっごく綺麗になったね」

そう言って花河さんはあの頃と変わらない艶のある内巻きの髪を揺らして笑う。

私は知ってる。

その私を見つめるニコッと細くなった瞳の奥が全く笑っていないことを。

「森ちゃん、ちょっと前園さん借りていい？」

「え、いいけど…」

「やった、ありがとう。じゃあ前園さんテラス行こっか」

そう言って花河さんは私の手を引いて歩き出す。
私は何も言えないまま花河さんに黙って着いていった。

「前園さんさ、今蛇賀君が何してるか知ってる？」

「し、知らない…」

そう言うと花河さんはふーんと言ってテラスの柵にもたれ掛かる。

「蛇賀君今うたのお兄さんしてるんだよ。すごいよね、芸能人だよ。昔から私達とは何もかも違う」

夜風が花河さんの髪を静かに揺らす。
私は何も言わずにただ花河さんの言葉を聞いていた。

「だからさ…ほんとに謎なんだよね。なんであの時蛇賀君が私じゃなくて前園さんを選んだのが…」

選んだって…

どういうことだと花河さんに問いかけようとしたけれど、私が口を開く前に花河さんが続ける。

「今度クラスでバーベキューに行くらしいの。その時私と蛇賀君が上手くいくように協力してくれない？」

ドクンと胸が大きく鳴る。

協力…。昔の私なら首を縦に振っていただろう。
でも…でも今は……

今は……！

「花河さんっ私、『ピリリリ…』

言いかけた途端、私の電話が鳴った。

カバンから携帯を取り出すとディスプレイには蛇賀池照と表示されていた。

蛇賀君から電話…しかもこのタイミングで…

電話に出るかどうか迷っていると、花河さんは私の手から携帯を取り上げた。

「花河さん！返し「へぇ…前園さん蛇賀君の電話番号知ってたんだ」

花河さんは口元を手で覆いながら目を細めた。

「蛇賀君と仲が良いなら話は早いよね。
バーベキュー楽しもうね」

花河さんはそう言うと私にスマホを返し、私の肩に手をぽんと置いて軽いステップで会場へと戻っていった。

気づいた時にはもう携帯の画面は静かに夜を映していた。