・ ページ23
dt side
翔太と俺は幼馴染だ。
大企業の跡取り息子として生まれた翔太と、代々続く農家の長男として生まれた俺。
体の弱かった彼は、東京から逃げるように田舎である俺の地元へと引っ越してきた。
何も知らない俺は、3歳から18歳まで、1日のほとんどを彼と共に過ごしていた。
家は継がない、東京の学校に行く。と両親に告げて家を飛び出した18歳になったばかりの俺。
翔太とは進学の話を一言もしたことがなかったため、
特に伝えることもなく1人勝手にあの街を離れた。
それから数年。
無事調理師免許を取得した俺は、ある有名レストランで修行を積んだ後、独立して小さなお店を開いた。
そこで、見慣れぬスーツ姿の翔太と再会をした。
nb『…りょーたじゃん!!』
dt『え、あ、翔太!?』
変わらないその姿に、つい頬が緩んで。
感動の再会でもしたかのようなほど嬉しそうな彼と、会えなかった時間を埋めるように何時間も話をした。
そこからは本当に早かった。
再会から1年も経たずして恋人関係になって、幸せな日々を過ごしていた、はずだった。
dt『…え、?』
nb『ごめん。大切にしないといけない人がいる』
dt『……そっ、か、』
この関係にゴールがあるなんて思ってなかったけど、ただなんとなくこれからも一緒にいるんだと思ってた。
別れを告げられたのは、翔太の27歳の誕生日だった。
“大切にしないといけない人がいる”
その相手が、自分ではないことは翔太の顔を見れば簡単にわかった。
俺のこと嫌いになったわけじゃないと思う。
けど、昨日まで好きだと、愛してると何度も伝えてくれた翔太が突然別れを選択したならば、きっと何か事情があるのだろうと思った。
けど俺が強く望めば、翔太は家も地位も何もかも捨ててしまいそうで。
だから何も言わず、受け入れた。
それが正解だと信じるしかなかった。
なんて、こんなのは言い訳で、ただ翔太のこれからを背負う覚悟が足りなかっただけだ。
453人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鯱 | 作成日時:2023年8月9日 15時