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「せっかく金田さんが紹介してくれたんです。きっと良い担当者さんが見てくれているはずです…」

 モザイク加工のパーテーションで仕切られた窓際の一角、綺麗に磨かれたテーブルの前に座り、薫は独り言ちていた。初めて訪れた出版社に緊張で落ち着かず、膝の上に置いた手に思わず力が篭もってしまう。不安な心を映すように、そこには幾重にも皺が広がっていた。


「大丈夫です…大丈夫」


 ゆっくりと深呼吸を繰り返しながら、ここまでのことを思い返す。
 例の一件で、出版社にまで警察の聴取が入ってしまい、うちではもう扱えないと言われてしまった薫が、金田に半ば強引に取り次ぎしてもらいどうにか紹介してもらったのがここだった。正直聞いた事のない名前だったが、自分の立場を考えると受け入れてくれる事が奇跡のような状況だと思った薫は、「ちょっと変わった所だけどいいかい?」と言われたものの、二つ返事で話を受けた。

 膝の上に置いた手をじっと見つめていると、パーテーションの向こうから物音がして「お待たせしましたー」と少し間延びした声が聞こえた。それを聞いて、薫は咄嗟に立ち上がり鞄を抱え込む。ひょこりと絵に書いたような動作で顔を覗かせた人物は、今まで会った編集者の誰よりも若い風貌をしていた。明るい髪色に目鼻立ちのハッキリした甘めの顔立ちが幼さを含ませている。てっきり40代くらいの慣れた編集者が現れると思っていた薫は拍子抜けして、その顔を凝視してしまっていた。


「竹内さん?」
「…あ、はっはい!よ、よろしくお願いします!」


 薫がブンッと音がしそうなくらい勢いよく頭を下げると、クスクスと笑う声が聞こえた。


「よろしくお願いしますね」


 少し意気込み過ぎたかと恥ずかしくなりながらそろりと顔を上げ眼鏡を直しながら前を見ると、そこには名刺を差し出す綺麗な指先があった。見ると“春藝出版 編集者 八乙女光”と書かれている。


「ありがとう、ございます…八乙女…さん」


 綺麗な名前だなと思いながら、受け取った手元から視線を戻すと、下から見上げる大きな瞳とぶつかった。間近でじっと見られていたことにドキリと肩が揺れ、何かを探るような窺うような、しかし嫌味でないそれに薫は心拍数が上がったのが分かった。


「お名前、薫って言うんだね。俺光って名前だからなんか似てるね…嬉しい」


 距離の詰め方が独特で何だか掴めない。新たな担当編集者・光に、薫はどこか不思議な違和感を感じていた。

□□→←ハルヲウルヒト



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アキラ(プロフ) - しろくまさん» こちらにもコメありがとうございます!相変わらずお早い反応で…さすがです(笑)陰キャくん、これから色々とムフフな目にあうのでどうぞ見届けてあげてくださいませm(_ _)m (2020年2月10日 18時) (レス) id: f5e2dc380f (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ふふふ、見逃しませんよ…( ̄▽ ̄)ニヤリ いつもと違う陰キャの竹内くんがどうなっていくのか、どきどきしながら更新をお待ちしています。 (2020年2月10日 17時) (レス) id: 8dcb6e2f50 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アキラ | 作成日時:2020年2月10日 16時

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