【第五人格】再会は何処にて。

11話 ページ12

そんなことない、そんなはずないと声を大にして叫びたかった。


けれど実際、私がピアノを弾くことによって多くの人が傷ついた、

悲しんだ、怒った、なかにはピアノを辞めてしまう人もいた。



ーー私のピアノは人を不幸にする。



私自身が、そのことを解ってしまった瞬間、


もう人前でピアノを弾くことが出来なくなってしまった。



　「そんなことは……」



ルカが否定しようと口を開いたけれど、それを遮るように

滲む涙を堪えて、ルカに向けて笑ってみせた。



　「……あるの」



その笑顔を見たルカが眉をひそめたのが目に映って、

あぁ、きっと下手くそな笑顔なんだろうなと内心自嘲していると、

ふと視界が白と黒の縞々模様に包まれた。


　「ル、ルカ……？」


椅子に座る私をルカが抱きしめ、

そしてとびきり優しい声でこう言ったのだ。



　「……私には音楽のことは分からない。

　 だけど、Aのピアノは少なくとも私を不幸になんてしないさ」



ーーずっと誰かに言われたかったその言葉は、

私の心のやわらかいところまで届いて、ゆっくりと溶けていく。


ルカの言葉と感じる体温にほっとして、嬉しくて、安心して、

気付けばまだあたたかい雫が、目からこぼれ落ちていた。


一粒、二粒とあふれた雫は彼の服にじんわりと染み込んでいく。

もうこれ以上泣かないようにと、涙を堪えるためグッと歯を食いしばる。

だけどルカはそれを見透かしたかのように、私にこんな言葉をかけたのだ。


　「今まで、辛かっただろう。

　 ……こんな時くらい、我慢せず泣くといい。

　 ここには私と君しかいないのだから」


ぽん、ぽん、と優しい手つきで背中をたたかれると、もう駄目だった。

まるで何かが決壊したように、私の両目からはらはらと涙が溢れ出した。



　「……うん」



ゆっくりと、縋るようにルカを抱きしめ返すと、

私を抱きしめる彼の腕に更に力が込められた。







ーー私のピアノが、音楽が、誰にも聞かれずに死んでいく。


それが嫌で嫌で、とにかく誰かに音楽を聞いて欲しくて、


自分の音楽で今度こそ人を幸せにしたくて、私はフルートを始めたのだった。


フルートを吹けば手のひらを返したように人々はまた私を認め、


褒め称えたがどこか満たされなかった。








本当はずっと、ずっと誰かにこう言って欲しかったのだ。









私のピアノは、音楽は人を不幸にしない。







人を、幸せにするものだと。

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