54話 ページ9
あの日以降、私はルカと一度も話せていなかった。
あからさまに避けられているわけではなく、ただ私が上手に声をかけられないだけ。
声をかけようとして、いざ目が合ってしまうとあの日のことを思い出してしまう。
怖くて、声が喉の奥でしわがれてしまうのだ。
、
「ねぇA、本当にこのままで良いの！？」
「……分からない」
私をベッドに座らせ、椅子に腰掛けるトレイシー。
「分からないって何さ！
ルカのやつ、絶対嘘ついてるよ！」
本当にそうなのだろうかーー。
あの言葉を言われた当初は、私も嘘だと思った。
だけど最近のルカは暇さえあれば発明に集中していて、
以前のようにビクターやアンドルーとすら一緒にいる姿を見かけなくなった。
ーー発明以外を一番にしたくない、私の存在はルカにとって邪魔だった。
この事実を言葉だけでなく行動でも突きつけられているような、感覚。
「……もうAが聞かないならボクが聞く！
こんなの黙って見てらんない！」
「ちょ、トレイシー！」
トレイシーは埒が明かない！といった様子で立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
私は彼女の腕に縋り付いて止めようとするも、一緒に部屋の外へと出てしまうだけだった。
「トレイシー、やめて！そんなことしなくていいから！」
「離してよ！ボクが勝手にやることなんだから、
Aは部屋に戻ってて！」
ぎゃあぎゃあと大きな声をあげながら、言い合いをする私たち。
トレイシーの行動は友達としてありがたいと思う、嬉しいとも思う。
だけど私にはもうこれ以上ルカの言葉を、
否定的な事実を受け止められる気力がないのだ。
「落ち着いて！私はもうこれ以上何も聞きたくないの！」
「何だよそれ！臆病者！大体……」
トレイシーが何か言いかけたその時、背後に人の気配を感じた。
「……おい、一体何の騒ぎだ？」
振り返ると困惑したように眉をひそめるナワーブ、その隣にはルカが立っていた。
ーールカの姿を捉えた瞬間、心臓が凍りついたような感覚に襲われた。
「お前らこんなとこで喧嘩すんなよな……どうした？」
「どうしたもこうも、ルカが……」
「トレイシー……！」
ルカに突っかかっていくトレイシーの服の裾をぎゅっと握りしめる。
これから繰り広げられるであろうやり取りが頭の中に広がっていく。
私はもう一刻も早くこの場から逃げ出してしまいたかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 90人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「第五人格」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
セルナ(プロフ) - 久々に占ツクでガチ泣きしました。こんなステキな作品をありがとうございまし。また、書く機会があれば応援しています！ (2021年2月22日 1時) (
レス) id: 9cc0fe1068 (このIDを非表示/違反報告)
れみこ(プロフ) - 野生の王者さん» 返信遅くなってしまい申し訳ありません……！なんと嬉しいお言葉……！！この作品だけでなく他の作品も読んでくださってありがとうございます！！！ (2020年9月3日 0時) (レス) id: f32edadf87 (このIDを非表示/違反報告)
野生の王者(プロフ) - 完結おめでとうございます！陰ながらずっと応援させていただきました。どの作品も面白く、涙ながらに読ませていただきました。まるで当事者のように胸が苦しくなり、切なくワクワクしました！素敵な物語をありがとうございました！これからも応援しています！ (2020年8月30日 12時) (レス) id: 3c825fe033 (このIDを非表示/違反報告)
れみこ(プロフ) - 沙羅さん» ここまで読んでくださって本当にありがとうございます……！！とても嬉しいお言葉……！！心情描写は頑張りました！！笑 こんな結末で申し訳ないです……。救済できるよう頑張りますね……！ (2020年8月28日 2時) (レス) id: f32edadf87 (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - 完結おめでとうございますと、お疲れ様です…！久々に文字を読んで涙した気がします…深い…。。れみこさんの書くお話はキャラクターの心情とかの描写が細かくてほんと尊敬します…(心がきゅぅってなりました…)ぜ、是非とも皆に救済を…！ (2020年8月27日 17時) (レス) id: 3aa856ffa1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：れみこ | 作成日時：2020年8月8日 17時
