二十六首目 月と太陽 ページ28
すっかり薄暗くなって街灯の灯る住宅街を二人で歩く。
「どうだった？」
ぽつりと神がそう聞いてきた。
「取りに迷いがあったな。」
聞いていることが果たして合っているのかわからない。そんな迷いが見えた。
俺が言える立場じゃないけど、中学生の神宮寺勇太と試合をしたことがある人は全体的に遅くなったと言うだろう。
「そうだよね。
聞こえてる方に集中すればいいんだけど、聞こえない方に引っ張られてしまう。
結果、迷いが生まれる。それが今の俺だよ。」
「やっはり俺なんて誘うべきじゃないよ。」
「でもっ！神宮寺勇太やった！」
彼の言葉を遮るように叫んだ。
「ほら、さっきのさびしさとか特に、誰にも真似できん神宮寺のかるたやった。」
鈍ったと言うだろう。
変わったというだろう。
あの流れるような手捌きはそれでもなお健在だった。
「神はさっきの試合楽しくなかったん？」
「楽しかったよ！
ても、楽しいだけじゃ勝てない。
怖いんだ、皆が期待する目も、勝手に期待して落胆する冷たい目も…」
彼のブレザーの腕のところがしわくちゃになった。そんな弱々しい姿に俺は心底腹が立った。
「逃げんな。」
「逃げたら何にもならん！」
辞めないで欲しい、とどまって欲しいという俺の思いはただの我が儘。
わかっとる、わかっとるけど、ここで離してしまったらきっと戻ってこない。
「高校で初めて会った時「やりたくない」やなくて
「出来ない」って言うたの覚えとる？
それが答えなんやない？」
黙ったまま、ずっと目は合わない。あっちが合わせない。
草木がさわめく音、ザワザワ、ザワザワと俺の心の音に聞こえた。
「そっか…これは逃げか…」
「ごめん、そんな言い方。」
「あ〜あもう、諦めよ。」
急に背伸びをしたと思ったらそんなことを言った。
「は？」
「こんなに廉に言われたらね。
諦めて廉に委ねてみようかなって。」
「ほんま？」
「かるた部、素直を誘われるよ。」
「ふっハハハ！」
また、並んでかるたができる。
嬉しくて、綻んだ笑いは止まるところを知らない。
「よろしくね。永瀬部長。」
「いや、俺が部長なん!?」
残りの帰り道はひたすらさっきの試合の反省会をした。
神はかるたにはかなり辛辣なところがあるが、それさえも心地よくて胃の辺りがポカポカした。
「じゃあ、また部室でな。」
空では月が太陽の力を借りてより明るくなりつつある。
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四季(プロフ) - マジックアワーさん» ありがとうございます！ (2022年11月30日 23時) (
レス) id: 10b371ccd5 (このIDを非表示/違反報告)
マジックアワー - 百人一首いいですよね。話の続き楽しみにしてます。 (2022年10月23日 10時) (レス) @page9 id: 461445c92c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：四季 | 作成日時：2022年10月18日 2時
