十四首目 はじめの一音 ページ16
今までのどの札よりも早く、正確にそして無意識に腕が大きく振れた。
「せ」の一字決まりは陣を飛び出し、障子の木に聞いたことのない固い音でぶつかった。
軽くて、固い、軽快な音。
二人は固まって、驚いた。
「廉、凄いね。
今のどこ聞いてたの？」
初めての手の感覚。聞こえたという感覚。
俺は完全にかるたという波にのまれてしまって、取り憑かれた。
「わからん。
でも聞こえた。綺麗に払えた。」
こんな喜び、快感があったんだ。
「これ、
瀬を速み 岩にせかるる 滝川の 割れても末に
会はむとぞ思ふ
やっけ？」
「知ってるの？じゃあ札に呼ばれたのかもね。」
不思議な表現だなとは思ったけれど、「呼ばれた」はすごくしっくりきた。
「川の流れが速いので、岩にぶつかって離ればなれになってしまいますが、
いつかまた巡り合えると信じています。」
「これの意味？」
「そう。
僕、一字の中だと一番好きだから。」
儚く、壊れてしまいそうな願い。その中に包まれる強い意思。
この歌は、神に似合う。
「僕は、廉のほうが似合うと思うよ。」
「えっ？」
「声に出てた。」
だんだん声が小さくなって、気恥ずかしそうに神はそう言った。
俺も心の中を聞かれてしまって恥ずかしいけれど、似合うと言われて悪い気は全くしない。
「なんか、ありがとう。」
「もう！続きやろう！」
二人とも勝負なんて忘れてひたすら没頭した。
学校のかるた大会まで、神は何度も練習に付き合ってくれた。
神は大会には出ずに先生にまざって審判をやっていた。
それは彼が圧勝してしまうかららしい。なんだか、納得できないけれど、
「廉が僕のかるたのこと知っててくれればそれでいいよ。」
と言う神を見て、まあ良いかと思えた。
俺のかるた熱はこれに留まらず、お母さんに頼み込んで市内のかるた会に入会した。
本当は、神の所属する東京さくら会がよかったけれどまあまあ遠いからそれは許してもらえなかった。
因みに、会の見学の日に俺は人見知りを発揮して神に付き合ってと頼んだのは黒歴史。
とにもかくにも、競技かるたのスタートは神の家の和室だった。
俺はまんまとはまってしまった。
それはかるたにだったのか、神にだったのか。
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四季(プロフ) - マジックアワーさん» ありがとうございます！ (2022年11月30日 23時) (
レス) id: 10b371ccd5 (このIDを非表示/違反報告)
マジックアワー - 百人一首いいですよね。話の続き楽しみにしてます。 (2022年10月23日 10時) (レス) @page9 id: 461445c92c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：四季 | 作成日時：2022年10月18日 2時
