十首目 噂の人と川の水の割れた末 ページ12
「すみませんｯ!」
脇道から走り出てきた人影は、俺達に気付くと岸くんの腕を引っ張って続けて言った。
「ちょっとだけ隠れさせて下さい！」
どんな危機的状況に置かれているのか。
それを想像する間もなく、なんとわなしに俺と紫耀間に彼を挟み、岸くんは彼の背中合わせに立った。
我ながらチームプレーが流石すぎるな。
ふと、左側の彼に目を引かれると、うちの制服を着ている。
殆ど着崩さずきっちりと。
顔は下を向いているからよく分からないけど、どこか高校生らしからぬ気品のようなものを感じた。
ほんの数秒して彼が逃げている理由が現れた。
「あれ？こっちに来たっぽいけど、」
「あり得ない、見失った！」
「折角××君と一緒に帰れると思ったのにぃ！」
高い声、メイクバッチリ、スカートギリギリ、いかにもな女子四、五人の軍団がさっきの脇道から飛び出した。
あれは確か近くの女子高の制服。
名前はよく聞こえなかったが、左にいる彼がビクビクしてるから、彼女たちが探しているのは間違いなくこの人。
ハイエナ
いやバイソンの群れ。
これに恐らく学校から追いかけ回されたこの人は可哀想過ぎて同情するよ。
暫く必死に何食わぬ顔を貫いていると、バイソンの群れはメイン街の人混みに溶けていった。
「行きましたよ。」
群れ見張り役みたくなってた岸くんがそう伝える。
「ありがとうございました。」
そう言って彼が顔をあげた瞬間、音が消えた。
「えっ……」
あの日、入学式の桜吹雪が二人の間に降る。
それはエクスタシーの産物。幻想の桜でしかない。
桜の仄かな香りが、更に深い記憶あの時の畳の香りまでもが鮮明に鼻腔を擽る。
入学式の日見たのは後ろ姿と横顔の更に横顔程度。
それでもパズルのピースを結びつけるには意外と十分だった。
「神、やろ？」
彼も俺の顔を見て目を見開いた。
そして木漏れ日のような声で呟いた。
「廉久しぶり、だね。」
「神、ってまさか…神宮寺勇太！?」
紫耀はよく分かってないようだけど、岸くんが目を丸くして驚くのも無理もない。
神宮寺勇太
A級六段
去年の名人戦挑戦者。
史上最年少十四歳で名人への挑戦権を手にした競技かるたの天才。
「なんで、廉知り合いなの？」
なんでって
神は俺にかるたを教えてくれた人やから。
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四季(プロフ) - マジックアワーさん» ありがとうございます！ (2022年11月30日 23時) (
レス) id: 10b371ccd5 (このIDを非表示/違反報告)
マジックアワー - 百人一首いいですよね。話の続き楽しみにしてます。 (2022年10月23日 10時) (レス) @page9 id: 461445c92c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：四季 | 作成日時：2022年10月18日 2時
