プロローグ ページ2
一月の凍てつく寒さに身を震わす人が赤い大門の前をすぎる。
数時間前から降りしきる牡丹雪が仕掛けた白化粧もここに集う人々には蚊帳の外。
聖地、滋賀県は近江神宮。
その境内の一画には本日、触れれば火傷をするほどの熱が籠った場所がある。
近江勧学館の二階浦安の間は今、息が詰まるほどの殺伐とした空気が充満し、足を踏み入れることも憚られる。
視線の中心は名人戦
若き名人と更に若き挑戦者お互いに天才と称される彼らは、お互いのかるたを理解し尽くしている。
名人は鷹のような眼光で残る札を見つめ、挑戦者は聴覚を研ぎ澄ます。
静寂に包まれ読手口が開く。
「せをはやみ」
パバンｯーーー
「せ」の半分が聞こえるか聞こえないか、読手のSが絞り出る音だけで十分なのか、観客が読まれた一首を認識した時には既に二人の指先は札を払っていた。
誰もが認める競技かるたの最高峰。
二人が動く、
空気が揺れる。
二人の音の少ないかるたは、全てのかるた経験者を魅力する。
既に決着のついたクイーン戦をも飲み込んで、空間はとっくに二人の世界。
見つめる観客も無数のカメラも彼らの眼中にはない。
もし今、絹すれの音されもしたならば、きっと彼らの集中を斯いてしまう。
その時、そっと挑戦者が僅かに右耳にかかる髪を掛けた。
その意味を本当に理解しているのは、特等席で名人戦を食い入るように見ている一人の青年だけなのではないか。
彼は願う。
あぁ、、
誰も動かんといて、
誰も息をせんといて、
この美しい音がよく届くように。
「ちはやぶる 神代も知らず 龍田川
唐紅に 水くくるとは」
「神代の時代にも聞いたことがない、龍田川を散った紅葉が唐紅に絞り染めにするなんて
まるで、真っ赤に燃え上がる私たちの恋の炎のようですね」
なんて業平がそんな意味をこめたかどうかは分からないけど、こんな解釈も素敵じゃない？
俺はそう君に教えてもらった。
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四季(プロフ) - マジックアワーさん» ありがとうございます！ (2022年11月30日 23時) (
レス) id: 10b371ccd5 (このIDを非表示/違反報告)
マジックアワー - 百人一首いいですよね。話の続き楽しみにしてます。 (2022年10月23日 10時) (レス) @page9 id: 461445c92c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：四季 | 作成日時：2022年10月18日 2時
