♂/喫煙表現有/恋愛気味 ページ26
本棚がこじんまりとした部屋の全ての壁を占領し、ドアと小さな窓ぐらいしか本が置かれていない場所はない。
「どうして、タバコを吸ってんスか?」
こんな中でタバコを吸う、彼女の姿が「オトナ!」という雰囲気で、とてもカッコよかった。
タバコを口に咥え右手にライター、左手でタバコの先を隠すようにして火を点ける。
そして右手でタバコを持ち、紫煙を吐き出す。
そのあと俺に目だけ合わせ、ふっと口角を上げて、微笑む。
それがとても絵になるし、写真に収めたい表情を向けるのだ。いまだに撮れないのだけど…。
「少年はタバコが嫌いかい?」
「…質問を質問で返すのは良くないッスよ」
右手でタバコを持ち、こちらへ視線のみを寄越す彼女にじとーっと視線を返す。
彼女はそうだな。と納得したようにくつくつ笑った。
「前に、緩やかなじさつと聞いたんだよ」
それから辞められないんだ。
その顔は笑っていなかった。
いや、微笑んでいる。とても優しい表情である。
しかし、バカにしているような茶化しているようなそんな表情じゃない。
諦めたような、でも愛おしいような、切望するような、そんな表情に俺は見えた。
「緩やかな、じさつ…」
「そう。首を吊りたいわけでも、胸や腹に刃物を突き立てたいわけでもないんだが、
緩やかに蓄積されたブツが、意図せぬ時にトリガーとなり得るのはなかなか面白いかな、と」
ふぅぅ。
紫煙がくゆる。
「死に、たいんスか…?」
「どうだと思う?」
彼女のギリギリに立ち入るような俺の質問。
立ち入り禁止と前に言っただろと言わんばかりに質問で返される。
これ以上は線引きしている範囲だろう?
詮索しないのが暗黙だろう?
そんな圧があるかのように、彼女ははぐらかす。
「…俺、Aさんがいなくなるの、嫌ッスよ」
「だろうな」
即答。間髪いれず。
それぐらいの速さで彼女は返答した。
ふぅう。
少し窄めた口から煙が吐き出される。
部屋の隅々へと広がる白。
控えめにつけられた小さな窓を全開にしていても換気が追いつかず、視界にモヤがかかり始める。
「ああ。でも…」
思いついた、と言わんばかりの唐突さ。
それは小さく独り言のように、とても静かな声で呟いた。
「今の生活も…存外、悪くはないな」
俺は何も答えられなかった。
──────彼女は煙を纏う
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作者名:秋花火 | 作成日時:2015年12月3日 20時