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三十七話 ただ一言だ… ページ38

──スッ…


そこへ計ったように
広間の襖が開け放たれた。


一「総長?」


千鶴「え……?」


それは──…
千鶴達が作った膳を持った山南であった。

彼は驚く幹部達の視線をくぐり抜けて、
自分の席に着くと膳の前で小さく呟く。


山南「いただきます」


千鶴「山南さん……!」


まだ目の前の出来事を
信じられないと言いたげな顔の千鶴が
その名を呼ぶと、彼は静かに微笑んだ。


山南「食事は大勢で取った方が
 良いそうですから…」


近藤「ああ、勿論だとも!」


近藤もそれに頷いて、
広間全体が一気に和やかな雰囲気に変わる。

そこでようやく
嬉しそうに口角を上げる千鶴を横目に
Aは澄ました顔で味噌汁をすすっていた。


あらかじめ、こうなることが
分かっていたかのように──…


左之助「なあ、A」


A「なんだ?」


左之助「もしかして、
 お前…山南さんに何か言ったのか?」


隣で彼女の表情をうかがっていた左之助は
小声でその真相を訊ねた。


A「ふっ……さあな」


このAの煙に巻くような態度を見て
左之助は己の思った通りなのだと悟る。

こいつが山南さんの心を動かすことを
言ったんだな…と。



* * *



それは四半刻ほど前のこと──…


千鶴が山南の部屋を出てすぐに
彼の部屋を訪れた者がいた。


A「総長、失礼します」


…───勿論、Aである。


山南「……今度は早乙女くんですか?
 私は形だけの浅はかな同情なんて結構です」


A「いえ。俺はただ…貴方に一言、
 申さねばならぬと思って参りました」


山南が突き放すように冷たく見据えても、
それが何でもないかのように
Aは涼しげな顔で言葉を続けた。


A「たとえ如何なる理由があろうとも
 上に立つ者が集団行動を乱すようでは
 隊士達の統率が取れるはずがない」


山南「……っ」


その淡々と告げられた言葉を聞き、
山南は苦痛に耐えるように顔を歪めた。

無論、彼自身もそんなことは理解している。


しかしながらも、
今の自分が新選組にいる意味とは何だ──…


そう考えると、どうしても
人と触れ合うのが恐ろしくなってしまう。

周りの者が優しいからこそ、
誰も自分を否定しないからこそ
その恐怖は増すばかりだ。



**********


続く

三十八話 いや、二言か…→←三十六話 顔に出てるよ…


ラッキー人物

藤堂平助 祭りに行ったら、手をつないで一緒に楽しんじゃお☆


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亜紀野ユキ(プロフ) - 彩豊さん» ありがとうございます(*´ー`*) (2022年10月26日 14時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
彩豊(プロフ) - こんにちは!凄くおもしろかったです!これからどんな展開になるか気になります_:(´ཀ`」 ∠):更新頑張ってください!応援してます☆彡 (2022年10月21日 19時) (レス) @page50 id: 72022c3b56 (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - 綵河さん» 薫くん良いですよね~♪僕も薫くんの生意気そうで寂しがり屋なところが愛らしいと思っています!!!!この小説でも早く登場させたいと思ってます!!!!!! (2016年8月10日 16時) (レス) id: f4bec4ec63 (このIDを非表示/違反報告)
綵河 - もっとたくさん薄桜鬼シリーズを書いてくれると読む気がわいてきます!ちなみに私は【南雲薫】の占いツクールを書いてくれると嬉しいです♪♪ (2014年3月31日 9時) (レス) id: 6ae65de84b (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - 玲名さん» お世辞でも嬉しいです!!僕はとにかく小説を書くとき、いつも読者様たちの立場になったつもりで「どう書けば伝わるか」を考えながら書いています♪とはいっても、僕より素晴らしい作者様たちはたくさんいますが… (2013年12月16日 21時) (レス) id: 806d6ba1fe (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:亜紀野ユキ | 作成日時:2013年2月3日 22時

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