【薄桜鬼】～美男剣士は、実は女？～惨 (ページ45)

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百四十四話　良い名だな… ページ45

総司「歳三」

また、現実を理解するために
長い沈黙が訪れた。

一「……それは
　いつものたちの悪い冗談か？」

総司「冗談じゃないよ。ね～歳三？」

──にゃー

総司に応えるように
機嫌良さげに猫が鳴いた。

総司「ほらね」

A「賢いな…！
　きちんと己の名を理解してるのか」

一「だからといって…」

総司「他の名前じゃ反応しないよ？」

一「……と…としぞー……」

──シャアーッ！！

観念したようにその名をぽつりと呟くが
呼び方が気に入らなかったようで
膝の上で猫が盛大に威嚇した。

一「も、申し訳ありません！
　…っあんたのせいだぞ総司！」

途端に一が猫に向かって平謝りする。

名称にかの者の印象が
かなり引っ張られていた。

総司「いや、僕にそんなこと言われても…」

すると、

A「沖田にしては良い名付けでは？
　風格があって賢く育ちそうだ」

一の膝の上の猫を撫でてAが
おもむろにそう呟いた。

その瞳には悪ふざけなど邪念は一切ない。

総司「え…？」

新八「ま、まさかA…お前……！」

A「なんだ？」

一「早乙女…あんたは副長の……」

総司「あーっ！そういえば
　Aくんはどうして一くんと
　僕の部屋に来たんだい？」

総司がわざとらしく一の言葉を遮った。

彼の勘が、面白い予感がすると
言っているのだ。

A「…？斎藤と道場で稽古を
　するつもりだったが、どうせなら
　沖田も呼ばぬかとなり訪ねてみた」

総司「そうだったんだー」

A「だが、猫の世話をするのなら
　日を改めよう。…斎藤も。
　膝の上を気に入られたようだし
　しばらく好きにさせてやったらどうだ？」

隊士らを待たせてはいけないと
一人道場へ向かうべく、
すくっと立ち上がった。

A「じゃあな、歳三。
　あとで煮干しを持ってくるから
　早く元気になるのだぞ？」

──にゃー

それに応えるように猫が力強く一鳴きした。

パタン…ッ

新八「行っちまった……ありゃあ、
　歳三ってのが土方さんの名前だって
　夢にも思ってねぇな…」

一「確かに早乙女は特殊な経緯の
　入隊だったが、まさか副長のお名前を
　知らずに今までいたとは…」

土方を下の名で呼ぶのは
近藤や井上くらいだろうが、
二人も「トシ」「トシさん」と呼ぶので
知らなくても無理はない。

最初の自己紹介は
殺伐として張り詰めていたゆえ
まともに覚えていなかろう。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

続く