【薄桜鬼】～美男剣士は、実は女？～惨 (ページ15)

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百十四話　一番に釣れたのは… ページ15

山崎「ああ、目の前にいるのに
　まるで…遠くから演劇を
　見せられているような心地だ」

道行く町人からAへ向けられる視線を
山崎は強く感じている。

A「今は共演の刻ですやろぉ…烝はん」

山崎「それもそうだな…A」

自分もより恋仲らしく見えるよう
Aを下の名で呼び、気を引き締め直す。

山崎「隠密とは忍耐だ。
　今日一日で全てを解決しようなどと
　功を焦り一人で思い詰めぬように」

短くても数日、長ければ数ヶ月も
孤独な潜入を担うことも
彼らにとっては日常茶飯事だ。

そんな山崎から見て、今のAは
生き急いでるように思えた。

浚われた少女達のことが
よほど気がかりなのだろうと理解もできるが
年長者として諌めなくてはと使命感が働く。

A「……あい」

その苦言を彼女は甘んじて受け、胸に留めた。

団子屋を出て、
次は小間物屋にたどり着き──……

A「これから戦いが待つやも
　しれまへんのにあまり荷物を増やすのは…」

山崎「髪飾りなら挿せばいいし問題ない。
　あと……このような店は
　年若い娘が多く出入りするだろう」

A「そうか…！獲物を狙う奴らの
　絶好の狩場ということ……でありますのやわぁ」

うっかり元の口調に戻りかけたのを
途中から無理やり軌道修正する。

それに年相応の未熟さを感じて
山崎が僅かに口角を上げた。

山崎「ふっ……では、俺が適当に
　見繕ってくるからそこで待っててくれ」

“囮として”というのは言わずもがな。

買い物よりもむしろAを
一人で店先に残したことこそが彼の狙いだ。

その意図を酌んでAは
身だしなみを簡単に整え
芍薬の花の如く一人たたずむ。

どこで犯人が見ているのか分からないので
澄ました顔で一切隙のないように。

すると──…

「あ、あの…っ！そこのお嬢さんっ！！」

A「(もしや…早くも釣れたか！？)
　……うちのことどすかぁ」

呼びかけられた方へ無警戒を装って
朗らかに微笑みかける。

だが、その人物を視界に入れて
すぐに彼女の表情が強張ることとなるのだ。

新八「す、清々しい陽気ですね！
　これから俺…いや、僕とお茶でもどっすか！？」

A (……何をしているのだ永倉！！？)

微笑んだ先にいたのは
今朝も広間で顔を合わせた永倉新八であった。

しかも、彼の後方には
ことの成り行きを温かい目で見守る
左之助と平助もいる。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

続く