【薄桜鬼】～美男剣士は、実は女？～惨 (ページ12)

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百十一話　俺にとって千は… ページ12

島田「はい、協力者に
　着物や化粧道具など一式
　用意して貰ってますが、
　えっと…その、やり方までは……」

目を泳がせる島田を見て
諦めたように小さく息をつく。

A「……問題ない。
　女兄弟のような存在がいて
　よく化粧などの実験台にされていた」

それは京に住まう幼馴染みの千のこと。

彼女は幼い頃、
両親に京へ連れられる度に千に
着せ替え人形のようにして遊ばれていた。

しかし、頼りがいのある姐御肌の
彼女のことが大好きで
着せ替え人形の時間も嫌いではない。

その関係性は今もなお続いているし……

山崎「すまないが任せた」

里も近くて早乙女の一族として
繋がりの深かった雪村家──…

一方、千の血筋とはAの母が縁がある。

双方が早乙女家を飛び越えて
関わることはなかったけれども
Aにとっては千鶴と薫も、千も
かけがえのない幼馴染みなのだ。

＊＊＊

そうして、Aは一度自室へと戻り
手渡された一式に身を包んだ。

白粉(おしろい)を乗せるのも
紅を差すのも久しく行わなかったゆえに
緊張と感動で胸が高鳴る。

頬紅もまだ乗せていないというのに
高揚感から自然と頬が色づく。

A「さて…こんなものか」

用意された道具を駆使してでは
薄化粧が限界なので
Aは少し不安な心地になる。

この程度の変わり様で囮が務まるのかと。

しかし──…

その慎ましやかな彩りの方が
かえって彼女の素材を引き立たせて
完璧な仕上がりと言えた。

けれども、自覚ないAは
難しい顔で思案に耽る。

A (そういえば……)

おもむろに今日まで布でくるんで
引き出しの奥に仕舞い込んでいた
あの簪を取り出す。

以前、何の前触れもなく平助に渡された
これがこんなにも早く
日の目を見ることになろうとは、
誰が予測できようか？

──スッ…

町娘らしく結い直した髪に挿したそれは
よくAの雰囲気に沿って似合っていた。

A (藤堂…落ち着きのない子供に見えて
　なかなかの目利きやもしれんな)

ふわっと鏡の前で和らげな笑みをこぼして
Aは土方達の元へ急いだ。

その道中、他の者に見られて
からかわれないように
頭からすっぽりと羽織を被って。

そして──…

きっと千鶴を同じように着飾らせれば
自分とは比べ物にならないほど
美しく可憐なのだろうと、胸の内で思う。

こんな危ないことに
彼女を巻き込むつもりなど毛頭ないが。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

続く