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二百三十八話 刻む本来の記憶 ページ44

「旦那なんていたのかい!?」


「嫌だよぉ早く教えとくれ
 そしたら実技も教えてあげたのに…」


遊女らが口々に声かけるが
羞恥から顔を覆って髪を振り乱す彼女は
何も聞き取れていない。


「ちょいとAちゃん。
 女将さんにも挨拶しといでよ」


「は、はい!」


伺いを立てるように杏寿郎を見ると
ゆっくり話してきなさいと言うように
和らげな笑みが深まった。

それを受けて彼女は一人廊下の奥へ向かう。


「にしても、名残惜しいねぇ…
 いっそうちで働いてほしいよ」


「めかしこんで座敷ついたときも
 なかなか様になってたもの」


「うちの性悪花魁たらし込んで
 妖しい仲と噂されるくらいだものねぇ…
 あの子なら上手くやってけるよ」


「あ、ちょ…っ」


疚しいことは何もないが
杏寿郎の耳に入れたくなかった内容が
背後で暴露されて勢いよく振り返る。


「その話…詳しくお伺いしたい」


止めに入りたかったがそのままAは
女将の元へずるずる引きずられてゆく。



* * *



そうして訪ねた女将の部屋で、


「こうして腹を据えて話すことは
 今までなかったわね」


「はい…」


言葉を交わすのは
蕨姫が人でないと女将が確信して
思い悩んだとき以来である。

自分のことも怖いと思われてる気がしたが
目の前の彼女は穏やかな表情だ。


「色々と…本当にありがとね」


「そ、そんな大袈裟ですよ!
 大したことしてませんし…」


三つ指ついて深く頭を下げるのを見て
Aはただ恐縮した。


「アンタは守ってくれたじゃないか
 みんなも……アタシのことも」


「え…」


己の死を回避したと彼女が知るはずないと
Aが目を丸めると
羽織の奥の血に気付いて女将の顔が歪む。

きっと全て終わったのだろう、と。


「ちょいと顔借りるよ
 着物はこれを着ておきなさい」


戸惑うAを置いて禿らを呼びつけて
有無を言わさず身支度を整え始める。

何があったとは聞かず
正体も問い詰めようとしない。


ただ、


「それがいつ終わるか知らないけど
 アンタ自身の幸せも叶えなきゃ駄目だよ」


まるで娘を遠くへ送り出すように
少女の今後を思って言葉を紡ぐ。


「もう…十分幸せですよ」


身支度を整え終えたAが微笑んだ。

ただ自分のしたいことをしただけで
恩を売るつもりも聖人君子になる気もない。


しかし、

救われた者には本来の死の感覚とともに
その献身が確かに刻まれる。



**********


続く

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煉獄さんコレクション

煉獄先生 歴史と教育への熱心な姿勢にうっとり!黒板じゃなくて先生だけを見つめちゃうと怒られるよ


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亜紀野ユキ(プロフ) - ゆゆさん» ありがとうございます!続編もどうぞよろしく(^-^)/ (6月2日 0時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ(プロフ) - 久しぶりに作品見に来たらたくさん更新されててめっちゃ嬉しかったです!堕姫ちゃんとの関係のところで涙出ました...知らぬ知らぬうちに関係が深まっていって...(泣)来世のお話もすっごく良かったです。みんな幸せになって欲しいな...この作品をずっと応援してます! (6月1日 19時) (レス) @page40 id: 2307c0fefd (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - みっささん» 嬉しいです!近日中にまた更新します_〆(゚▽゚*) (5月8日 18時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
みっさ - 初コメ失礼します!面白くて優しくて可愛いヒロインちゃんって神では!???何時も楽しく見させていただいてます!ゆっくりでいいので更新がんばってください! (5月8日 16時) (レス) @page47 id: 0ca1847e23 (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - あさん» 頑張ります(〃ω〃)ポッ (5月8日 1時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:亜紀野ユキ | 作成日時:2023年2月1日 16時

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