二百十七話 この感情は… ページ23
「私…貴女が大好きです…!」
今後を思って少女の瞳から涙が溢れる。
それがどんな感情で流したものかわからず
堕姫は悲しげな微笑を見上げて呆けた。
「……のぼせ腐るんじゃないよ」
言葉と同時に視界が反転し
間近に迫る整った顔を見上げて
Aの息が詰まる。
気付けばいつものように組み敷かれていた。
───ガリ…ッ
「っ……」
「この味も癖になってきたわね」
腕の内側の柔らかいところを噛まれて
血とともに堪えきれない涙が滲む。
歯を食いしばって抑えた嗚咽が僅かに溢れた。
「アタシに喰われること…光栄に思いなさい。
───美しくて馬鹿な共喰い鬼」
苦痛に震える頬を撫でながら
浮世離れした美女が舌なめずりして
冷酷なまで蠱惑的に笑う。
整わぬ不規則な呼吸を繰り返し
Aはただその美貌に目を奪われた。
(圧倒的顔面偏差値…!顔良っ!!)
己の危機は十分理解してるが
覆い被さっているこの美女と目が合うと
つい見惚れて思考が飛んでしまう。
──ガリ…ィ
しかし、鬼の回復力で塞がった噛み跡に
再び歯を立てられて身体が跳ねる。
「ぃ…っ」
「目を閉じるんじゃないよ。
お前が誰のものかちゃんと胸に刻め」
この瞬間だけはAの頭は
否応なしに堕姫でいっぱいになるだろう。
* * *
血を流しすぎて気を失ったAを眺め
再び形容しがたい苛立ちを覚えた。
───ぎり…っ
頬に爪を立てると皮膚の内側から血が滲む。
しかし、同じ鬼ゆえに
傷はすぐ塞がって滑らかな肌に戻った。
そう──同じなのだ。
どうして禿や他の遊女らの前で無邪気に笑い
喜んで手助けしたがるのか。
少女の“好き”はあまりに多すぎて
自分に向けられたものは唯一無二ではなく
数ある内の一つに過ぎない。
どうして…それがこうも癪に障るのか。
「アタシはこいつをどうしたいの?
教えてよ……お兄ちゃん…っ」
頬を撫で、あどけない寝顔を見つめながら
己の中で眠る兄に問いかける。
これまで欲しいものは全て奪ってきた
堕姫はこのもどかしさを
消化する術を持ち合わせていない。
“もし…もっと優しい世であったなら
人だった頃に貴女のそばにいたかった”
得体の知れぬ感情が暴走する前に
骨の髄まで喰らい尽くすべきか
答えが出ぬまま今日も手元に置いてしまう。
きっと、認めてしまったが最後…
後戻りできない気がする。
兄は沈黙を貫いて何も答えてくれなかった。
**********
続く
煉獄さんコレクション
煉獄先生 歴史と教育への熱心な姿勢にうっとり!黒板じゃなくて先生だけを見つめちゃうと怒られるよ
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亜紀野ユキ(プロフ) - ゆゆさん» ありがとうございます!続編もどうぞよろしく(^-^)/ (6月2日 0時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ(プロフ) - 久しぶりに作品見に来たらたくさん更新されててめっちゃ嬉しかったです!堕姫ちゃんとの関係のところで涙出ました...知らぬ知らぬうちに関係が深まっていって...(泣)来世のお話もすっごく良かったです。みんな幸せになって欲しいな...この作品をずっと応援してます! (6月1日 19時) (レス) @page40 id: 2307c0fefd (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - みっささん» 嬉しいです!近日中にまた更新します_〆(゚▽゚*) (5月8日 18時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
みっさ - 初コメ失礼します!面白くて優しくて可愛いヒロインちゃんって神では!???何時も楽しく見させていただいてます!ゆっくりでいいので更新がんばってください! (5月8日 16時) (レス) @page47 id: 0ca1847e23 (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - あさん» 頑張ります(〃ω〃)ポッ (5月8日 1時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜紀野ユキ | 作成日時:2023年2月1日 16時