百七十四話 温もりに抱かれて ページ29
「嫌ってなんかいません…
怖くなんてありません…っ」
────ずっと前から好きでした。
そう続けるつもりが、
なかなか気持ちの踏ん切りがつかず
口をぱくぱく動かしてうつむく。
“俺の名は煉獄杏寿郎!”
ふと、柱合会議の一幕を思い出した。
そういえば自分は彼に
名乗ってすらもいないことに気付いて
息を整えてAが続ける。
「……夜叉野Aと申します。
自分は食べられないので誰かが美味しそうに
食べる顔を見るのが好きな十六歳です」
それが杏寿郎の願望ならば…と
今、この瞬間が初めましてとなるよう
精一杯の笑顔で自己紹介を始めた。
「好きなのは、愛犬と戯れるのと
同志と手紙で熱く語り合うの…と……」
また語りぐせが暴走して
間違った方向に逸れて、言葉が詰まる。
最も好きと誇れるものは──…
「あと……ほ、炎を連想させる
志の高く温かくて優しい
つり目気味の素敵な殿方です…!!」
勢いでそう言い切ると
驚きの表情で固まる杏寿郎の
左目の近くにそっと触れた。
猗窩座との戦いで潰され閉ざされた
それを見ると涙がいっそう溢れる。
(どうか……この傷を私に移してください…!
何もできなかった私が悪いから
彼からは何一つ奪わないで……っ)
これまでの治療で欠損が治ることはなかった。
しかし、少しでも可能性があるのなら
Aは諦めきれない。
───ボゥ…ッ
世の理に真っ向から挑むように
目を凝らし続けると、一縷の光が灯る。
馴染みある赤でも青でもなく
ましてや白でもない新たな希望──…
────煌々と輝く陽光のような橙色が。
まるで杏寿郎そのもののような
まばゆい光をしるべにすぐさま鍼を打った。
(なんとも温かい……)
失われたはずの瞳が熱を帯びて
不思議な感覚に杏寿郎は呆気にとられる。
固く目蓋を閉ざしたままなので
その下で何が起きているかはわからない。
「っ……ずっと前から好きでした…!!」
先ほどの回りくどい言葉で
きちんと気持ちが伝わったかが不安で
ついにAは想いを告げた。
今言わないと一生言えない気がして。
「これからも大切なご家族と
大盛りの美味しいごはんに囲まれて
いっぱい笑って長生きし…て……っ」
────ぎゅうぅ…っ
幸せになってください…と言い切る前に
Aは突然口を閉ざした。
杏寿郎に手を引かれて
その逞しい腕の中に閉じ込められて
身動きがとれなくなったために。
**********
続く
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亜紀野ユキ(プロフ) - 桜井直(なお)さん» ありがとうございます(´ω`*)コツコツ頑張ります (2023年1月29日 12時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
桜井直(なお)(プロフ) - 亜紀野ユキさん» ヒロイン、可愛い。。作者さんは天才!こんないいお話を!続編待ってます! (2023年1月29日 10時) (レス) @page50 id: f84b7d123d (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - 綺羅さん» わっしょいなご祝儀ですね(*´∀`)占いコーナーまでご閲覧嬉しいです (2023年1月18日 21時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - kanayamamoto112さん» こんな子ならストーカー気質でも推せますね(*´ω`*)ほっこり (2023年1月18日 21時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
綺羅(プロフ) - 尊いッ!!見ていて癒やされます、御馳走様です(笑)ご祝儀はサツマイモでも…(笑)そして占いのおはぎに笑いました(笑)一か八かでずんだにして持って行ってみます!← (2023年1月18日 21時) (レス) id: fcc9d08bef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜紀野ユキ | 作成日時:2022年9月7日 17時